PC自作ユーザーやゲーマーの間で、いま警戒すべき詐欺事例が報告され始めています。DDR5メモリの価格が高騰する中、DDR4やさらに古いDDR2を「DDR5」として販売する偽装品が、海外のAmazonで実際に確認されているのです。「日本では起こらない」と思いたいところですが、同じ仕組みで運営されている以上、決して他人事ではありません。
そこで、今回の問題についてわかりやすく解説していきたいと思います。
なぜ今、DDR5詐欺なのか
2025年末、DDR5メモリの価格が急騰しています。AI需要の高まりやDRAM不足の影響で、2025年前半と比較して2〜3倍以上の価格になっているケースも珍しくありません。こうした市場環境は、残念ながら詐欺師にとって絶好の機会になってしまいます。
実際、海外のAmazonでは「DDR5として販売されていたのに、届いたのはDDR4だった」「封印シール付きのパッケージを開けたら、中身はDDR2モジュールと重りだった」といった被害報告が複数出ています。高額商品ほど狙われやすい、というのは古今東西変わらない詐欺の法則と言えるでしょう。
実際に起きた偽装DDR5の事例
Corsair製DDR5を買ったら中身はDDR4だった
最も注目を集めた事例が、Redditユーザー「Leading-Growth-8361」さんのケースです。彼はAmazonでCorsair Vengeance DDR5キットを購入しました。大手メーカーの製品で、パッケージもしっかりしている。普通なら疑う余地はありません。
ところが、実際にマザーボードに装着しようとしたところ、メモリスロットに差し込めないことに気づきました。DDR5規格のメモリなのに、物理的に入らない。おかしいと思ってヒートシンクを外してみると、なんと基板はDDR4モジュールだったのです。
DDR5用のヒートシンクとラベルを被せただけの、完全な偽装品でした。ヒートシンクで基板が隠れてしまうため、パッと見ただけでは本物と区別がつきません。実際に装着を試みて、初めて異変に気づいたわけです。
密封パッケージでも安心できない
別の事例では、さらに巧妙な手口が報告されています。購入者が受け取ったDDR5メモリキットは、メーカーの封印シールがしっかり貼られた、見た目は完璧な新品でした。
しかし開封してみると、中に入っていたのはDDR2という、すでに型落ちとなった世代のメモリモジュール。しかも重量を合わせるための偽の重り(ウェイトプレート)まで入っていたというのですから、手が込んでいますよね。「密封されているから安全」という信頼を逆手に取った、悪質な手口と言わざるを得ません。
なぜメモリが偽装のターゲットになりやすいのか
物理的に似ている、だから騙しやすい
DDR4とDDR5は、どちらも288ピンという同じピン数を持っています。サイズ感もほぼ同じ。決定的な違いは、スロットに差し込む際の「ノッチ」(切り欠き)の位置です。DDR4とDDR5では、このノッチ位置が異なるため、本来は物理的に互換性がありません。また、DDR5は中央にPMICがあり、I/O抵抗とCMD/ADD抵抗が統合されています。

つまり、DDR4メモリをDDR5スロットに差そうとしても、ノッチ位置が合わないため入らない。その逆も同様です。これは誤挿入を防ぐための設計なのですが、裏を返せば「ヒートシンクで隠せばバレにくい」という弱点にもなってしまいます。
ヒートシンクが「見えない壁」になる
現代の高性能メモリには、ほとんどの場合ヒートシンクが装着されています。見た目もカッコいいですし、冷却性能も向上するので、ユーザーにとっては嬉しい装備です。
しかしこのヒートシンク、基板のほとんどを覆い隠してしまいます。DDR5用のヒートシンクとラベルを被せてしまえば、開封しただけでは多くのユーザーが本物と偽物を見分けられません。型番やスペック表示も印刷されたラベルを貼り替えれば済む話です。
動作してしまうケースへの懸念
一般論として、メモリ偽装全般で厄介なのは、「容量さえ表示通りなら、一見動作してしまう」ケースがある可能性です。今回紹介したDDR4→DDR5の偽装は、物理的にスロットに入らないため発覚しましたが、もし将来的に「動作する形の偽装」が出てきた場合、ベンチマークツールやシステム情報を確認しない限り、一般ユーザーは気づきにくくなる可能性大です。
Amazonとマーケットプレイス構造が生むリスク
返品再販の仕組みと「すり替え」
Amazonには、返品された商品を検品した上で再度出荷する仕組みがあります。これ自体は効率的なシステムなのですが、この過程で悪質な購入者による「すり替え返品」が混入するリスクが指摘されています。
つまり、誰かが本物のDDR5を購入し、中身を偽物にすり替えて返品。そのパッケージが検品を通過してしまえば、次の購入者に偽物が届く、という流れです。海外の事例では、Amazonが販売・発送する商品(いわゆる「Amazon本体」の商品)であっても、返品経由で偽装品が紛れ込んだと見られるケースが報告されています。
「販売元がAmazonなら絶対安全」とは、残念ながら言い切れなくなっているのが現状です。
中華販売業者の急増と品質リスク
日本のAmazonでも、ここ数年で中国系販売業者の比率が高まっていることが各種調査で指摘されています。一部の調査では、新規出品者のかなりの割合が中国事業者とされており、世界的に見てもAmazonマーケットプレイスにおける中国セラーは多数派になりつつあります。
一応、「中華業者すべてが危険」ということではありません。中には丁寧に対応している業者もあります。問題なのは、「評価が少ない」「相場より明らかに安い」「ブランドの実体が不明」といった複数の要素が重なったときです。こうした条件が揃うと、リスクは格段に跳ね上がります。
特に高額パーツを扱う際は、「激安無名ブランド + マーケットプレイス出品者」という組み合わせには、十分な注意が必要。必ずしもすべてが危険というわけではないものの、リスクが高まりやすい組み合わせであることは事実です。
日本のAmazonで実際に起こっている/起こり得ること
日本はまだ「比較的」安全、だが…
現時点では、日本のAmazonでサプライチェーン内部での大規模なDDR5偽装事案は確認されていません。ただし、個別の体験談ベースでは、返品すり替えによるトラブルが報告されています。公式に統計が出ているわけではありませんが、仕組み的には起こり得る状況にあるわけです。
日本語の掲示板やSNSでも、「PCパーツは信頼できる店以外から買うのをやめた」「すり替え詐欺に遭った」といった声が散見されます。まだ海外ほど深刻化していないとしても、今後どうなるかはわかりません。
「価格破壊」の裏側に潜むリスク
DDR5メモリのような高額パーツは、ちょっとでも安く買いたいというのが人情ですよね。しかし相場より大幅に安い商品には、それなりの理由があることを忘れてはいけません。
「なぜこの商品だけ安いのか?」「出品者の評価は信頼できるか?」「ブランド名で検索して実体のある企業か?」といった視点を持つことが、自衛の第一歩になります。
読者が今すぐできる具体的な自衛策
ここまで不安を煽るような内容になってしまいましたが、適切な対策を取れば、リスクは大幅に減らせます。DDR5メモリを購入する際のチェックリストとして、次の内容を参考にしてください。
購入前の対策
まず大前提として、出荷元・販売元がAmazon.co.jp、または国内有名PCショップ(ツクモ、ドスパラ、パソコン工房など)の公式アカウントである製品を優先しましょう。マーケットプレイスの商品がすべて危険というわけではありませんが、高額パーツに関しては慎重になるべきです。
価格についても、価格比較サイトや他店と見比べて、「明らかに安すぎる」DDR5は避けたほうが無難でしょう。相場の7〜8割以下で売られているようなケースは、特に注意が必要です。
もしマーケットプレイスから購入する場合は、出品者の評価件数、星の内訳、そして最近のレビュー内容を必ず確認してください。評価が数十件しかない、あるいは最近になって突然ネガティブレビューが増えている出品者は避けるべきです。
受け取り・開封時の対策
商品が届いたら、パッケージに「LPN」などの返品再販ラベルが貼られていないかチェックしましょう。もしラベルがある場合は、開封の様子を動画撮影しておくことを強くおすすめします。シリアルナンバーや外箱の状態も映しておくと、万が一のトラブル時に証拠になります。

開封したら、ヒートシンクの固定状態、ラベルの印刷品質、スペルミスなどを軽く確認してください。違和感があれば、すぐに装着せずにメーカーサイトの製品画像と見比べてみましょう。
装着・動作確認時
実際にマザーボードに装着する際、「差さりにくい」「ノッチ位置が合わない」と感じたら、絶対に無理に挿し込まないでください。一度取り外して、基板のノッチ位置を確認しましょう。
DDR4のノッチは中央よりやや左寄り、DDR5のノッチは中央寄りに位置しています。ヒートシンクを外さないと確認できないケースもありますが、数万円の製品が偽物だった場合のダメージを考えれば、確認する価値は十分あります。
装着後は必ず、BIOS画面またはOS上のシステム情報で、メモリの世代、クロック、容量が仕様どおりになっているか確認してください。CPU-Zなどのベンチマークツールを使えば、より詳細な情報を確認できます。
トラブル発生時の対応
もし偽装品と判明したら、すぐにカスタマーサポートへ連絡しましょう。その際、次の証拠を揃えておくとスムーズです。
- 開封時の動画や写真
- 注文履歴のスクリーンショット
- 製品のシリアルナンバーが写った画像
- 実際のメモリ仕様を示すBIOS画面やツールのスクリーンショット
すり替え詐欺の可能性があるケースでは、「中身が注文した製品と別物だった」ことを示す証拠が重要になります。感情的にならず、淡々と事実を伝えることも大切です。
価格だけでなく「安全コスト」も見る時代に
DDR5のような高額パーツを購入する際、私たちはいま、価格だけでなく「安全コスト」も考える必要があります。数千円安く買えたとしても、偽物を掴まされて返品交渉に時間を取られたり、最悪の場合泣き寝入りすることになったりしたら、結果的に高くつきますよね。
信頼性の高いルートから買うことは、一種の保険です。「ちょっと高いけど、安心を買っている」という発想が、これからの時代は必要になってくるのかもしれません。
また、今回のような詐欺事例をSNSやブログで共有することも、実は重要な自衛策の一つです。情報が広まれば広まるほど、詐欺スキームは成立しにくくなります。もしあなたが「おかしい」と感じる取引に遭遇したら、ぜひ周囲に共有してください。
まとめ
DDR5メモリの偽装詐欺は、海外で実際に起きている現実の問題です。日本のAmazonでも、同じ構造がある以上、いつ同様の被害が広がってもおかしくありません。
しかし過度に恐れる必要はありません。信頼できる販売元を選び、開封時に注意を払い、動作確認を怠らなければ、リスクは大幅に減らせます。高額な買い物だからこそ、ひと手間を惜しまない慎重さが求められる時代になったと考えましょう。
皆さんが安心してPCパーツを購入できるよう、この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。少なくとも、この内容を頭の片隅に置いておくだけでも、「怪しい違和感」に気づける確率は上がるはずです。

