2026年現在、ネット上では「AIがバカになる」「モデル崩壊でネットがゴミ化する」といった言説が増えてきました。確かに、AI生成コンテンツが溢れる中で、検索結果の質が落ちたと感じる方も多いと思います。
でも、本当にAIそのものが「バカになっている」のか?それとも、自分たちの使い方や情報環境に問題があるのか?
そこで、技術的な観点から「AIがバカになる」という現象を3つの視点で整理していきます。モデル崩壊という技術的リスク、情報環境の変化、そしてコストとのギャップという経済的な側面です。煽り記事に惑わされず、冷静に現状を理解していきましょう。
モデル崩壊という「本物」のリスク
モデル崩壊とはどんな現象か
まず、技術的に「AIがバカになる」可能性として注目されているのが「モデル崩壊」という現象です。これは生成AIが自分や他のAIが作ったデータばかりを学習し続けることで、分布の偏りが増し、多様性や正確さが失われていく現象を指します。
イギリス・オックスフォード大学のShumailovらの研究によると、何世代か繰り返すと、まれなケース(専門用語で「ロングテール」と呼ばれる部分)が消えて、似たようなパターンばかり出すようになることが確認されています。具体的には、元の分布の「尾」の情報が失われ、モデルが平均的なケースに収束していくことが示されました。これは画像生成でもテキスト生成でも、条件を整えると同種の劣化が観測されています。
簡単に言えば、AIがAIの作った「平均的な」情報ばかり食べ続けると、徐々に視野が狭くなっていくイメージですね。
なぜそうなるのか──統計モデルとしての限界
モデル崩壊が起きる理由は、AIの学習の仕組みにあります。統計モデルは「よく出るパターン」を強く学習する性質があります。そして、生成されたデータは、すでにモデルが得意な領域を強調しているため、それだけを食べ続けると「偏りの再強化」が起きてしまうんです。
結果として、次のような問題が生じます。
- マイナーな表現や例外的なケースが学習されにくくなる
- ノイズと本物のロングテールが区別されにくくなる
- 世界の「解像度」が落ちていくような状態になる
たとえば、「猫の画像」を生成するAIが、AI生成の猫画像ばかりを学習すると、特定の角度や色合いの猫ばかり生成するようになり、多様な猫の表現ができなくなるといった感じです。
現実の大規模モデルはどう対策しているか
では、実際にChatGPTやGeminiといった大規模モデルは、どう対策しているのでしょうか。
実サービスのモデルが取り得る対策としては、次のようなものがあります。
- 人間由来データの比率を確保する
- 生成データをフィルタリングし、多様性や品質をチェックしたものだけ使う
- 新規の人間データ(ウェブ、書籍、パートナーデータなど)を継続的に追加する
最近の議論では、モデル崩壊は「理論的・実験的にあり得るリスク」として認識されています。一方で、「適切に設計すれば回避可能な技術課題」でもあり、「特定の年に全AIが一斉に崩壊する」といった決定論的なものではありません。
つまり、「AIがバカになる可能性」は技術的には存在しますが、未来予言というよりは「ちゃんと対策すべき設計上のリスク」として捉えるのが現実的なんですよね。
ネットが「バカっぽく」見える理由
ハルシネーションと「それっぽい嘘」
技術的なモデル崩壊とは別に、今まさに起きている問題があります。それが「ハルシネーション」と呼ばれる現象です。
大規模言語モデル(LLM)は「流暢さ」と「事実の正しさ」が分離しやすく、もっともらしい嘘を出すことがあります(本当によくある)。利用者がこれを「事実保証」と誤解すると、「AIは自信満々に間違える=バカに見える」状態になります。
実際、ChatGPTが存在しない論文を引用したり、Geminiが間違った商品情報を提示したりする例は珍しくありません。AIは「正しそうに見える文章を作るのは得意」でも、「事実確認をする能力」は持っていないのが現状ですね。
チェックされていないAIコンテンツの氾濫
さらに問題なのが、AIの文章生成が簡単になったことで、内容チェックや検証をほぼ行わず、量産した記事やブログ、レビューが大量に公開される現象が起きていることです。
特に次のような特徴を持つコンテンツが増えています。
- 中身が薄いテンプレ解説
- ソースやデータの裏付けがない
- 同じ話を言い換えただけの量産ページ
こうしたコンテンツが検索結果を埋め始めていて、「検索しても役に立つ情報が出てこない」という体験につながっているんです。業界やコミュニティでは、こうしたAI量産の低品質コンテンツを「AIスロップ(AI Slop)」と呼ぶこともあります。2025年には辞書のWord of the Yearにも選ばれた言葉です。
余談ですが、情報商材的なものの中には「AIを使って完全自動」みたいなものを売りにしているものがありますよね。そういうものはファクトチェックを行っていないと思われるので、こういった事象に拍車をかけているのではと思います(迷惑な話です)。
「AIがバカ」ではなく「使い方がバカ」な側面
ここで強調したいのは、モデル内部で「知能が崩壊している」というより、人間側が「安く速く」を優先し、AI出力を検証せずに垂れ流した結果として、ネット全体が「バカっぽく」見えている部分が大きいということです。
モデル崩壊(学習データ側のリスク)と、AIスロップ(利用・運用側の問題)は明確に分けて考える必要があります。AIそのものの性能が落ちているわけではなく、適切なチェック機能が働いていないことが問題なんですよね。
メモリ高騰と「バカで高い」への反感
AIブームとハード・電力コスト
技術面、情報環境面とは別に、もう一つ「AIがバカに見える」要因があります。それが経済的な側面です。
AI技術の発展に伴い、データセンター、GPU、NPUなど、AIインフラ向けの投資や需要が拡大しています。その結果として、次のようなコスト上昇が起きているんです。
- 高速メモリや大容量ストレージの需要増
- 電力・冷却・設置コストの上昇
これらは各種レポートでも指摘されており、AI関連のハードウェア価格に影響を与えています。
一般ユーザーから見える「AIのせいで高くなった」構図
PCやスマートフォンのトレンドを見ると、「AI PC」「NPU搭載」をうたい、メモリやストレージも増量した新機種が高価格帯で出ています。AI機能をフルに使わない人にとっては、単に「高くなった」と感じやすいですよね。
実際のところ、価格上昇はAIだけでなく、半導体サイクルや他用途需要、為替なども影響しています。とはいえ、AIが新たな需要を作り、価格の押し上げ要因の一つになっているのも事実です。
たとえば一部の「AI PC」では、従来16GBで十分だったメモリが「AI機能を使うなら32GB推奨」といった形でスペック要求が上がり、それが価格に反映されているケースも見られます。
「コストに見合わないAI」がヘイトを生む
ユーザー側の体感としては、「デバイスは高く、電力も食うのに、AIの答えはまだ間違いが目立つ」となるのが現実です。
ここから生じる感情が、「バカのくせに高い」「電気ばかり食う」「メモリ価格が高騰した」というAIヘイトです。
これは技術の本質的な問題というより、「期待値」「コスト」「現状の品質」のバランスが悪いところに由来する感情なんですよね。AIの性能が急速に進化しているのは事実ですが、一般ユーザーが感じる「価値」がコストに追いついていないケースも多いんです。
AIは「どういう意味で」バカになり得るのか?
モデルとしてのバカ化(技術リスク)
モデル崩壊という意味では、AIがAI生成データばかり学ぶと性能が劣化するリスクは現実に存在します。しかし、業界はこの問題を認識しており、データ管理やフィルタリングなどで対策可能な余地も大きいです。
「数年以内にAIが完全に崩壊する」といった決定論的な予測は、現時点では根拠に乏しいと言えます。技術的な課題として認識され、対策が進められている段階なんですね。
情報空間としてのバカ化(現在進行形)
一方で、ハルシネーションとノーチェックAIコンテンツにより、「ネットの一部はすでにそれなりにバカになっている」のは事実です。
ここを改善する鍵は、次の2点にあります。
発信者側の対応
- AIを下書きツールとして使いつつ、人間の検証・編集を必須にすること
- ファクトチェックを怠らないこと
受け手側の対応
- 一次ソースや専門家の情報にたどり着く検索スキルを持つこと
- 複数の情報源を確認する習慣をつけること
AIが生成した情報を「そのまま信じる」のではなく、「参考情報の一つ」として扱う姿勢が重要です。
コストとのギャップとしての「バカ高いAI」
高騰するハードウェアや電力コストに対して、ユーザーが感じる価値が追いつかないとき、「AIはバカ」「AIはいらない」という感情が強くなります。
今後求められるのは、次のような対応です。
プロバイダ側
- コストに見合う具体的な価値(時間短縮・品質向上など)をわかりやすく示すこと
- 不要な機能を省いた低価格モデルの提供
ユーザー側
- 自分のワークフローのどこにAIを入れると「本当に得」になるのかを見極めること
- すべてをAI任せにせず、適材適所で活用すること
まとめ:AIとの賢い付き合い方
「AIがバカになる」という煽りは、モデル崩壊という技術的論点と、現実の情報環境やコストの問題がごちゃ混ぜになっている印象があります。そこを切り分けて見れば、冷静に付き合う余地は十分あるんですよね。
個人的には、AIは「万能でも救世主でもなく、時々ボケるが、うまく使えばかなり強力なアシスタント」程度に位置づけるのがちょうどよいと考えています。
完璧を求めすぎず、かといって盲信もせず、自分の目で確認しながら使っていく。そんな距離感が、2026年のAI活用には必要なのかもしれません。
技術は進化し続けていますし、問題も認識されて対策が進んでいます。AIが「バカになる」という決定論に振り回されるのではなく、現状を正しく理解して、賢く使いこなしていきたいものです。

