2025年秋にリリース予定の「Windows 11 バージョン 25H2」のプレビュー版が、ついにInsider Program向けに公開されました。海外の専門サイトや最新情報をもとに、25H2の特徴や新機能、そして24H2で多発したトラブルとの違いについて詳しく解説していきます。
24H2の苦い記憶:なぜトラブルが多発したのか?
25H2の話に入る前に、まずは前バージョンの24H2を振り返ってみましょう。24H2では多くのユーザーが様々なトラブルに見舞われました。
24H2で報告された主な問題
記憶に新しい方も多いと思いますが、24H2では次のような深刻な問題が発生していました。
- ゲーム関連の問題:Easy Anti-Cheat(ゲームのチート対策ソフト)とIntelのAlder Lake+プロセッサとの非互換性により、Asphalt 8、Apex Legends、Fortniteなどのゲームプレイ中に「MEMORY_MANAGEMENT」エラーでブルースクリーンが発生
- 指紋認証の不具合:デバイスロック後に指紋センサーが応答しなくなり、Windows Helloが使用不可になる問題
- カメラ・オーディオ問題:統合カメラの物体・顔検出機能やDiracオーディオ搭載デバイスでの音声出力に不具合
- ネットワーク接続の不安定性:WiFi接続が不安定になったり、ネットワークアダプターが応答しなくなる問題
トラブル多発の根本原因
では、なぜ24H2でこれほどトラブルが多発したのでしょうか?主な原因は次のようなものではないでしょうか。
新プラットフォーム「Germanium」への移行
24H2では新しいプラットフォーム基盤「Germanium」が導入されました。Germaniumとは、Windowsの内部アーキテクチャを指すコードネームで、OS の根幹となるシステム構造や更新配信の仕組みを大幅に刷新したものです。非常に大きなアーキテクチャの変更でしたが、それに伴う既存のハードウェアやソフトウェアとの互換性テストが不十分だった可能性があります。
サードパーティ製ソフトウェアとの連携不足
前述したEasy Anti-Cheatの問題に代表されるように、外部ソフトウェアメーカーとの事前調整や互換性検証が十分でなかったことが浮き彫りになりました。
ハードウェア固有の問題への対応不足
指紋センサーやカメラ機能の不具合は、特定のハードウェア構成でのみ発生する問題でした。多様なハードウェア環境でのテストが不十分だったと考えられます。
段階的リリースの限界
Microsoftは段階的なリリースを行っていましたが、実際の多様な使用環境での問題を事前に発見するには限界があったということですね。
このように挙げてみると、全体的に事前のテストが不足していたといった感じですね。テストが不十分なままリリースしてしまい、その結果として不具合が多発。Microsoftは影響を受けるデバイスに「互換性ホールド」を適用し、自動アップデートを停止せざるを得ませんでした。
Windows 11 25H2の概要
そんな24H2の反省を踏まえ、25H2では大きく方針転換が図られています。
リリース時期と戦略
25H2の正式リリースは2025年9月〜10月頃が予定されています。25H2は24H2と同じ「Germanium」プラットフォームをベースにしており、技術的には大幅なアップグレードではありません。これにより、24H2で発生したような互換性問題のリスクを軽減できると期待されています。
革新的なアップデート方式:「eKBパッケージ」の威力
25H2の最大の特徴は、新しいアップデート方式でしょう。
従来の大型アップデートとは異なり、「イネーブルメントパッケージ(eKB)」という仕組みを採用しています。この仕組みの特徴は、サービススタック更新プログラム(SSU)と累積更新プログラム(LCU)の統合によりダウンロード容量が約40%削減されている点です。
これにより、24H2から25H2への更新は再起動が1回で済むとのこと。また、アップデートにかかる時間も大幅に短縮されており、月例パッチレベルの手軽さになるとされています。
個人的には、アップデートで何度も再起動しなければならない状態が異常だと思いますが、それでも今後は再起動回数が大幅に減るようなので、非常に良い改善だと思います。
eKBパッケージの仕組み
eKBパッケージの仕組みですが、25H2向けの新機能は事前に24H2に「無効化」状態で配信され、eKBを受信して再起動することで有効化されるというものです。
つまり、普段受け取っている月例アップデートの中に、すでに25H2の機能が密かに仕込まれているということなんですね。そして25H2のリリース時に、それらの機能を一斉に「オン」にするスイッチが送られてくるわけです。
25H2の新機能・改善点:実用性重視の進化
25H2で追加される予定の新機能についてまとめていきましょう。
1. パスワード管理の革新:1Password統合
Windows標準のパスキープロバイダーとして「1Password」が統合される予定です。これにより、パスキーを利用したログイン時に、1Passwordに保存された認証情報が使用可能になります。
ただし、この機能を使うには次の条件があります。
- 1Password Beta for Windows 11のインストールが必要
- 1Passwordの有効なライセンス(サブスクリプション)が必要
- プラグイン認証情報マネージャーサポートの有効化が必要
つまり、無料で使える機能ではありませんが、すでに1Passwordを利用している方にとっては、より seamlessなパスワード管理が実現されるということですね。
なお、1Passwordは公式で契約するよりも、ソースネクストが販売している3年版ライセンスの方がコスパは高いです。もし購入を検討しているなら、Amazonのソースネクストストアで最新の価格をチェックするのがおすすめです。
2. Copilotのさらなる進化
25H2では、AIを活用した様々な機能が追加・改善される予定です。一般的なPCで使える機能から、NPU搭載のCopilot+ PC限定の高度な機能まで、幅広いユーザーに向けた改善が行われています。
一般的なCopilot機能の改善
25H2では、設定アプリにAIエージェントが統合される予定です。これにより、「マウスポインターが小さすぎる」といった自然言語での問い合わせに対して、適切な設定変更を提案してくれるようになります。
また、Windows検索に「セマンティックインデックス」機能が追加され、ファイル名を覚えていなくても、内容や文脈から目的のファイルを見つけやすくなります。たとえば、「猫の写真」と検索すれば、ファイル名に「猫」と入っていなくても、実際に猫が写っている画像を見つけてくれるといった具合ですね。
Copilot+ PC限定の機能
NPU(Neural Processing Unit)を搭載したCopilot+ PCでは、現在プレビュー版として提供されている次の機能が、25H2で正式版として安定化される予定です。
- Recall機能:過去の画面操作を検索可能にする機能(現在プレビュー段階、プライバシー対応済み)
- Click to Do:画面上の要素を右クリックするだけでAIによる操作提案(段階的展開中)
- Auto Super Resolution:ゲームのフレームレートを向上させつつ視覚品質を維持(限定的に利用可能)
- Windows Studio Effects:ビデオ通話時の背景ぼかしや照明調整をNPUで高速処理(24H2から利用可能)
これらの機能は既に一部のユーザーは体験できていますが、25H2では安定性の向上とより広範囲での利用が期待されています。
ただし、これらの高度な機能を使うには40TOPS以上のNPUを搭載したCopilot+ PCが必要です。現在対応しているのは、Snapdragon X Elite/Plus、Intel Core Ultra 200V、AMD Ryzen AI 300シリーズ搭載のPCに限られています。
3. スタートメニューの刷新
新しいスタートメニューでは、レイアウトが大幅に見直されます。現在のように「ピン留め」と「すべてのアプリ」が別々のページに分かれているのではなく、1つのページにすべてが統合される予定です。
具体的には、上部にピン留めしたアプリ、中央に推奨アプリとファイル、下部にインストール済みアプリがカテゴリ別にグループ分けされて表示されるようになります。つまり、スクロール1回でピン留めアプリから全アプリまで確認できるということですね。
また、推奨セクション(おすすめ)を完全に無効化するオプションも用意される予定で、よりシンプルなスタートメニューを好むユーザーにも配慮されています。
4. ロック画面ウィジェットのカスタマイズ
ロック画面にもカスタマイズ性の向上が図られます。従来は固定的だったロック画面の情報表示が、より柔軟に設定できるようになる予定です。
新しい「Your widgets」設定では、ロック画面に表示するウィジェット(天気、カレンダー、株価、ニュースなど)を個別に選択できるようになります。これにより、ロック状態でも自分にとって重要な情報だけを一目で確認できるというわけです。
この機能は従来の「ロック画面の状態」設定に代わるもので、より細かな制御が可能になります。必要のない情報は非表示にして、ロック画面をすっきりさせられます。
5. バッテリー管理の最適化
モバイルユーザーには嬉しいバッテリー寿命の延長機能も追加されます。「User Interaction-Aware CPU Power Management」という新機能により、これまでよりもインテリジェントな電力管理が実現される予定です。
この機能の仕組みは、ユーザーがマウスやキーボードを操作していない時間を検知し、その間はCPU使用率を積極的に抑制するというもの。従来の電力管理では一定時間後にスリープモードに入るだけでしたが、25H2では「使っていない間の無駄な処理」をより細かく制御できるようになります。
特に優秀なのは、ユーザーが操作を再開した際の復帰速度です。バッテリーを節約しつつも、作業再開時には素早く全速力に戻るため、「省電力だけど使い勝手が悪い」という従来の問題を解決しています。
ノートPCやタブレットユーザーにとっては、外出先での電池持ちが大幅に改善される可能性がありますね。
6.サポート期間について
25H2へのアップデートにより、新たに24ヶ月間のサポートが開始され、2027年秋までとなります。参考までに、既存バージョンのサポート終了予定日は次の通りです。
- Windows 11 22H2:2024年10月8日(すでに終了)
- Windows 11 23H2:2025年11月11日
- Windows 11 24H2:2026年10月13日
23H2をお使いの方は、今年の秋でサポートが終了してしまうので、25H2への移行を検討する良いタイミングかもしれません。
25H2の技術的アプローチ
24H2のトラブル多発を受けて、25H2では明らかに異なる技術的アプローチが採用されています。25H2の特徴を理解するためには、この技術的な方針転換を知ることが重要です。
同一プラットフォーム採用の意味
25H2が24H2と同じ「Germanium」プラットフォームを使用するのは、技術的に大きな意味があるように思います。新しいプラットフォームへの移行では、どうしても予期せぬ互換性問題が発生するリスクがありますが、同一プラットフォームを継続使用することで、そのリスクを大幅に軽減できます。
これは、24H2で発生したような大規模な互換性問題の再発を避けるための、現実的で堅実な判断と言えそうです。
継続的イノベーション戦略の成熟
Microsoftの「継続的イノベーション」戦略により、新機能の多くは年間を通じて段階的にリリースされています。そのため、年次の大型アップデートは以前ほど機能追加に重点を置く必要がなくなり、安定性や互換性の確保により多くのリソースを割けるようになっています。
Windows 10サポート終了との関係
2025年10月にWindows 10の無料サポートが終了予定ですが、OneDriveバックアップやMicrosoft Rewardsポイントなどの条件を満たせば、ESU(Extended Security Updates)を無料で1年間利用できると発表されました。
それでも、Microsoftとしては、Windows 11への移行を促進させたいと考えているでしょう。そのためには、アップデートの容易さが不可欠です。25H2のeKBパッケージによる高速・簡単なアップデートは、この移行促進の一環とも考えられます。
なお、Windows 10のESUについては、👇の記事で詳しく解説していますので、併せてご覧ください。
アップデート時の注意点
ここまで25H2の安定性について説明してきましたが、24H2のトラブルを見てきた方なら「また同じことが起きるんじゃないか?」と不安に思うのも当然です。確かにMicrosoftの「今度は大丈夫」という話を100%信用するのは難しいものです。
そこで、リスクを最小限に抑えながら、25H2へアップデートするための方法を見ていきましょう。
様子見は立派な選択肢
いくら安定性が向上したとはいえ、リリース直後のアップデートには予期せぬ問題がつきものです。特に24H2で苦労された方なら、「もう二度と同じ思いはしたくない」と考えるのは当然でしょう。そのため、「様子見」は立派な選択肢であり、すぐにアップデートするのは避けたほうがいいでしょう。
様子見したほうがいい理由は次のとおりです。
- リリース直後は未発見の問題が残っている可能性がある
- 他のユーザーの報告やレビューを確認できる
- 初期の修正パッチが提供されてから導入する方が安全
- 業務や重要な作業への影響を避けられる
特に仕事でPCを使っている方や、安定性を最優先したい方は、リリースから1〜2ヶ月程度は様子を見るのがおすすめです。ネット上での評判や、Microsoftからの追加情報を確認してからでも決して遅くありません。
24H2が導入されていないと簡素化したアップデートは利用できない
前述した簡素なアップデートの恩恵を受けるには、次の条件があります。
- 24H2への事前更新を推奨:eKB機能による高速アップデートは24H2からのみ利用可能
- 月例更新の継続:25H2の機能が事前に24H2に配信されるため、月例アップデートの適用が必要
22H2や23H2など、古いバージョンからの場合は、従来通りの完全アップグレードになります。つまり何度も再起動が必要になるということですね。
Insider Programでの試用
現在、Windows Insider ProgramのDevチャンネルでビルド26200.5670(KB5060838)が配信中です。ただし、現時点では25H2独自の新機能はまだ実装されておらず、変更履歴は24H2のベータチャンネルビルドと同じ状況です。
新機能のテストは今後数週間から数ヶ月をかけて段階的に開始される予定なので、興味のある方はInsider Programへの参加を検討してみてください。
まとめ:25H2は「安心できるアップデート」になるかも
Windows 11 25H2は、24H2の反省を活かしているのか、全体的に「安定性重視」のアップデートのような感じになっています。主なポイントをまとめると、次のような感じでしょうか。
25H2の特徴
- 24H2と同一プラットフォームによる高い互換性
- 40%のダウンロード容量削減と高速インストール
- 実用的な新機能(1Password統合、Copilot強化など)
24H2との違い
- トラブル発生リスクの大幅な軽減
- アップデート体験の劇的な改善
- より慎重で段階的な機能展開
2025年秋の正式リリースまで、まだ数ヶ月ありますが、今回のプレビュー版の登場により、25H2の方向性がより明確になりました。今回は、これまでの情報を見る限り、24H2で多発したトラブルはなさそうです。油断はできませんが。
個人的には、今回アップデート方式が改善されている点はいいですね。普段使っていて困っている部分(アップデートのたびに何度も再起動など)を改善されるのがうれしく感じます。やはり、新機能追加に偏重されるよりは、OSが軽くて安定したものになってほしいところですが、なかなかそういう方向性では進みませんね。
進化が止まるのは困りものですが、とにかく「もっと軽く安定させてくれ」というのが本音です。そろそろその願いが伝わると嬉しいと思う次第です。