最近、YouTubeやX(旧Twitter)などのSNSで「Windows 11のSSDが爆速化する裏技」という動画が話題になっています。「レジストリを3行編集するだけで85%も速くなる!」といったセンセーショナルなタイトルが目を引きます。
確かに技術的には効果がある方法なのですが、実はMicrosoftが公式に一般ユーザー向けに公開している設定ではなく、「隠し機能をハック的に有効化する」類のテクニック。そのため、一般ユーザーにはおすすめできないリスクの高い手法です。
そこで、その技術的背景と実際のリスク、そして今後の正式対応の見通しまで、順を追って整理していきます。
SNSで話題の「爆速化裏技」とは?
YouTubeで「Windows 11 SSD 高速化」などと検索すると、数多くの動画がヒットします。その多くが「Native NVMeドライバを有効化する」という手法を紹介しているものです。
この裏技の内容を簡単に言うと、Windows 11に隠されている機能をレジストリ編集で強制的に有効化するというものですね。動画では「ベンチマークスコアが大幅アップ!」といった検証結果が示され、多くの視聴者を集めています。
ただ、レジストリという重要なシステム設定を変更する方法であるため、慎重に判断する必要があります。まずは技術的な背景から見ていきましょう。
技術的背景:Windowsのストレージ構造と「Native NVMe」
従来のWindowsが抱えていた問題
NVMe(Non-Volatile Memory Express)とは、SSDの性能を最大限引き出すために設計された通信規格のこと。従来のSATA接続と比べて、圧倒的に高速なデータ転送が可能になります。
ところが、Windows 10や初期のWindows 11では、NVMe SSDを使っていても、内部的には「SCSIストレージ」として扱うための変換レイヤーを経由して処理していました。これはレガシー互換性を保つための設計だったのですが、その変換処理が余計なオーバーヘッド(処理負荷)を生み出していたんです。
Native NVMeドライバがもたらす変化
2025年にMicrosoftがWindows Server 2025に導入した「Native NVMeドライバ」は、このSCSI変換レイヤーを排除する新しい仕組みです。
NVMe SSDと直接やり取りすることで、次のようなメリットが期待できます。
- CPU使用率の低減:無駄な変換処理がなくなる
- IO性能の向上:データの読み書き速度が改善される
- レイテンシの削減:応答速度が速くなる
理論上は確かに優れた仕組みなのですが、問題はこれがまだ「サーバー向けOS」にしか正式導入されていないという点にあります。
NVMeドライバを有効化するには
注意:次の内容は参考情報です。実行を推奨するものではありません。
SNSや海外メディアで話題になっている方法は、Windows 11 25H2に埋め込まれている隠し機能を強制的に有効化するものです。具体的には、管理者権限のコマンドプロンプトで次の3つのレジストリ値を追加します。
reg add HKEY_LOCAL_MACHINE\SYSTEM\CurrentControlSet\Policies\Microsoft\FeatureManagement\Overrides /v 735209102 /t REG_DWORD /d 1 /f reg add HKEY_LOCAL_MACHINE\SYSTEM\CurrentControlSet\Policies\Microsoft\FeatureManagement\Overrides /v 1853569164 /t REG_DWORD /d 1 /f reg add HKEY_LOCAL_MACHINE\SYSTEM\CurrentControlSet\Policies\Microsoft\FeatureManagement\Overrides /v 156965516 /t REG_DWORD /d 1 /f
正常に有効化されれば、再起動後のデバイスマネージャーでNVMe SSDが「ディスク ドライブ」ではなく「ストレージ ディスク」配下に移動し、ドライバー名がdisk.sysからnvmedisk.sysに変わります。つまり、WindowsのストレージスタックがNVMe SSDを直接制御するモードに切り替わるわけです。
繰り返しますが、これはWindows Server 2025向けに用意された機能を無理やりオンにするハックであり、Microsoftが一般ユーザー向けに案内している手順ではありません。実行する場合は完全に自己責任となり、システムの不具合やデータ損失のリスクが伴う点は注意してください。
実際の検証結果:効果はあるが「ピーク値」
海外メディアの検証データ
Tom’s HardwareやNotebookcheckといった海外の技術系メディアでは、このNative NVMeドライバを有効化した検証が行われています。
確かにランダム書き込み性能が最大85%改善したという報告もあるのですが、これはあくまで「ベストケース」の話なんですよね。
現実はそう簡単ではない
実際には次のような結果も報告されています。たとえば、ある検証ではCrystalDiskMarkのランダム書き込みが約85%向上した一方で、別の環境ではWestern Digital製SSDで性能が落ちたというものです。
- ほとんど変化が見られないケース
- 特定のベンチマークでは逆に遅くなるケース
- システム構成によって結果がバラバラになるケース
効果が出やすいのは特定の条件下、たとえば高負荷なIO処理を頻繁に行う環境に限られます。普段使いのWebブラウジングや文書作成では、体感できるほどの違いは出ないことが多いでしょう。
なぜ危険なのか:一般ユーザーにおすすめできない理由
設定すると起こりうるトラブル
このハックを実行すると、バックアップソフトがドライブを認識しなくなったり、SSD管理ツールが正常に動作しなくなったりする互換性問題が報告されています。また、将来の累積更新で挙動が変わる可能性もあるため、長期的な安定性は保証されていません。
実際に報告されている具体的なトラブルとしては、次のようなものがあります。
- バックアップソフトがSSDを正しく認識しなくなる
- SSDメーカーの管理ツール(Samsung Magician、Crucial Storage Executiveなど)が正常に動作しない
- システムの復元ポイントからの復元に失敗する
いずれも、作業途中のデータを失ったり、重要なバックアップが取れなくなったりする深刻な事態につながりかねません。
レジストリ編集とサポートのリスク
この方法はレジストリという重要なシステム設定を変更するため、完全に自己責任の領域になります。
誤った編集をするとシステムが起動しなくなったり、データ損失のリスクもあるんです。YouTubeで紹介されているからといって、安全が保証されているわけではありません。
さらに、万が一トラブルが起きても、Microsoftのサポートは受けられませんし、PCメーカーのサポートも対象外になってしまいます。特に仕事で使っているPCでは、絶対に試すべきではありません。
Microsoft公式の動き:将来の正式対応は?
では、このNative NVMeドライバは今後どうなるのでしょうか。
すでに公式発表されている情報
2025年12月、MicrosoftはWindows Server 2025向けに「Native NVMe」を正式に発表しました。この時点で、サーバー用途では公式サポートが開始されたことになります。
そこで興味深いのは、Windows 11にもすでに関連するコードが含まれているという点です。つまり、今後はWindows 11でも正式に利用できる可能性が高いということになります。
コンシューマ向けの展開予想
技術コミュニティでは、Windows 11の次期大型アップデート(バージョン26H2以降)で一般向けにも正式対応されるのではないか、という見方が有力です。ただし現時点ではあくまで「予想」であり、Microsoftが公式に時期を明言しているわけではありません。
Microsoftとしても、サーバー向けで実績を積んだ後、段階的にコンシューマ向けに展開するという慎重なアプローチをとっている可能性が高いですね。
待つことの価値
正式対応されれば、次のように安全にSSDを高速化できるようになります。
- 安全に機能を利用できる
- 互換性の問題が解決される
- メーカーサポートも受けられる
- アップデートによる最適化も期待できる
今すぐハックするより、正式対応を待つほうが確実で安全というのが結論です。
まとめ:ロマンはあるが、まだ「人柱領域」
技術的には確かに効果がある手法で、実際にベンチマークスコアが向上するケースも報告されています。
しかし、一般利用にはまだリスクが高すぎるのが現状なんです。システムトラブルのリスク、ソフトウェア互換性の問題、そしてサポート対象外になるという点を考えると、仕事や重要なデータを扱うPCでは避けるべきでしょう。
もし「どうしても試してみたい」という場合は、少なくとも次の条件を満たせる「上級者ユーザー」に限るべきかと思います。
- 完全なバックアップを取り、復元テストまで済ませている
- トラブルが起きたときに、自分で原因切り分けと復旧ができる
- 仕事用ではないテスト用PCで行う
- 自己責任であることを理解し、最悪OS再インストールも厭わない
Microsoftは段階的にこの機能を展開していく方針のようです。Windows 11の次期大型アップデートで正式対応される可能性が高いため、それを待つのが賢明な判断だと言えるでしょう。

