「寝る前にスマホを見ると睡眠が壊れる」「ブルーライトは絶対ダメ」――こんな話、聞いたことありますよね。SNSでも健康系のインフルエンサーが声高に警告していますし、ハーバード大学の研究を引用した「寝る前スマホの危険性」を訴える記事も数多く見かけます。
でも、「少し触っただけで睡眠が崩壊する」というのは、本当にそこまで正確な話なんでしょうか。一方で、最近のSNSでは「Harvard got it wrong」(ハーバードは間違っていた)という投稿も見かけるようになりました。
実は、ハーバード大学の一般向け記事「Blue light has a dark side」は、夜のブルーライトの「暗黒面」をかなり強めのトーンで訴えています。ただ、その後に発表された最新の研究データを見ると、もう少し複雑で、条件次第という側面も見えてきます。
そこで、ハーバード研究が実際に何を示したのか、そして2024〜2025年の最新メタ分析が語る「寝る前スマホ」のリアルな影響を整理してみたいと思います。完全に安全とは言えないけれど、誇張された部分もある――その両面を知ることで、より賢い付き合い方が見えてきます。
ブルーライトの本当の危険性とは?
まず、ハーバード大学のLockley氏らが行った研究について見ていきましょう。この研究では、460nm付近のブルーライトを6.5時間という長時間浴びた場合、人間の体内時計(メラトニンリズム)が数時間単位でずれる可能性があることが示されました。特に短波長のブルーライトは、長波長の光に比べて体内時計への影響が大きく、位相遅延(体内時計が後ろにずれること)を引き起こしやすいことがわかりました。
これだけ聞くと「やっぱりブルーライトは危険じゃないか」となります。確かに、ブルーライトが体内時計に強く効くのは科学的事実ですし、ハーバード Health Letterの「Blue light has a dark side」という記事も、この研究群をもとに「夜のブルーライトは睡眠を乱すリスクがある」と警鐘を鳴らしています。
ただし、この実験では、高強度で専用の光源を使い、しかも6.5時間という長時間照射した条件での結果。つまり、日常的に寝る前に30分〜1時間程度スマホを見る状況とは、かなり条件が違うということですね。
「ブルーライトが体内時計に影響する」という基本原理は正しいものの、普段のスマホ使用がどこまでその影響を受けるかは、もう少し慎重に見る必要があります。
データで見る「寝る前にスマホをする」影響
では、実際の日常的なスマホ使用は睡眠にどんな影響を与えているのでしょうか。
2024年に発表された大規模な系統的レビュー・メタアナリシスでは、電子メディア使用と睡眠の質の悪化、そして睡眠問題の増加に「小〜中程度」の有意な関連があることが示されました。統計的な効果量で言うと0.28〜0.33程度で、「劇的」というほどではないものの、無視できない影響があるということです。
さらに複数の大規模調査では、寝る前のスクリーン時間が長いほど就寝時刻が遅くなり、睡眠時間が短くなる傾向が報告されています。研究によって幅はありますが、毎晩1時間以上使う層では、非使用者と比べて平均で十数分〜数十分ほど就寝が遅いという結果もあります。
こうした研究結果から見えてくるのは、「方向性としては睡眠に悪い方に効く」というのはほぼ確定している、ということです。ただし、「即座に不眠症になる」といった劇的なレベルというより、じわじわと睡眠の質や時間に影響してくるタイプのリスクと言えます。
毎日積み重なっていくと、気づかないうちに慢性的な睡眠不足につながる可能性がある――そう考えると、軽視できない問題なのがわかります。
睡眠に悪いのはブルーライトだけ?実はコンテンツも重要
夜のスマホ使用が睡眠に悪影響を与えるメカニズムは、ブルーライトだけではありません。
最近の研究では、「コンテンツの刺激性」「使用時間の伸び」「寝る時間そのものの先送り」といった要因が、光そのものと同じくらい、あるいはそれ以上に重要だと指摘されています。2024年のランダム化試験などでは、夜のスマホ使用は光の条件をコントロールしても、通知やSNS・ゲームと組み合わさることで入眠遅延や睡眠の断片化につながることが示されました。
考えてみれば納得できますよね。興味深いSNSの投稿やゲームのキリが悪いところで「あと5分だけ」と思っているうちに、気づけば1時間経っていた――こんな経験をしたことがある人は多いと思います。通知が来れば反応してしまうし、刺激的なコンテンツは脳を覚醒させてしまいます。
つまり、「ブルーライトカットメガネをかければ万能」というわけではなく、画面の明るさや使用時間、そしてコンテンツの刺激をどうコントロールするかが現実的なポイント。ブルーライトだけを悪者にしていると、本質的な問題を見逃してしまう可能性があります。
「寝る前のスマホの危険」はどこまで本当?
さて、ここまでの情報を整理すると、「寝る前のスマホは危険」という論調は、どこが誇張で、どこが真実なのかが見えてきます。
崩れる部分
まず、「少し触っただけで睡眠が崩壊する」というメディア的な誇張は、近年の研究から見ると行き過ぎです。短時間で画面輝度を低く設定していれば、影響は比較的小さいことが多いんですね。ただし、完全にゼロというわけではないので注意が必要ですが。
また、「ブルーライトだけを完全悪として叩く」のも精度が低いと言えます。前述したように、生活習慣やコンテンツの刺激性を無視して、光だけに焦点を当てるのは片手落ちです。
崩れない部分
一方で、長時間・高頻度での夜間スマホ使用が、睡眠時間の短縮や睡眠の質の低下と結びつくという結論は、多数の研究で支持されています。これは「無害」とはとても言えません。
特に若年層では、睡眠の質の低下、メンタルヘルスの問題、SNSの過剰利用が絡み合う「悪循環」のパターンが報告されています。睡眠不足がメンタルを悪化させ、それがSNS依存につながり、さらに睡眠が削られる――といった可能性が議論されており、決して軽視できない問題です。
つまり、「寝る前のスマホは完全に危険」というわけではなく、「誇張された部分は削られつつあるが、リスク自体はむしろはっきりしてきた」というのが正確な理解と言えるでしょう。
「絶対禁止」より効く使い方
では、具体的にどうすればいいのか。「寝る前は一切スマホを見ない」という理想論を掲げても、現実的には難しいですよね。アラームの設定、明日の予定確認、リラックスのための動画視聴――スマホは生活に深く組み込まれています。
ここでは、ハーバードHealthや医療情報サイトで推奨される対策を含めて、ユーザーが実践しやすい「賢い寝る前スマホの使い方」を紹介します。
明るさと色のコントロール
就寝2時間以内は、画面輝度をできるだけ落としましょう。iPhoneならNight Shift、AndroidならNight Light、WindowsならNight Lightといったナイトモード機能を有効にするのも効果的です。ダークモードも併用すると、画面全体の明るさをさらに抑えられていいですね。
これらの機能は、画面から発せられるブルーライトの割合を減らし、より暖色系の光に調整してくれます。完全にリスクがゼロになるわけではありませんが、体内時計への影響を軽減する助けになります。
時間の上限を決める
寝る30〜60分前を「スクリーンからのクールダウンタイム」に設定するのがおすすめです。レビュー研究でも、寝る前の電子メディアを利用する時間を減らすと睡眠が改善する可能性が示されています。
スマートフォンには使用時間を制限する機能が標準で搭載されていますから、就寝1時間前になったら特定のアプリを使えなくする設定を試してみてください。最初は物足りなく感じるかもしれませんが、慣れてくると意外と快適になります。
コンテンツの選別
激しいゲームやSNSの無限スクロールよりも、通知をオフにした静かなコンテンツに切り替えるのが賢明です。読書アプリで電子書籍を読む、落ち着いたポッドキャストを聞く、瞑想アプリを使うといった選択肢があります。
特にSNSは、「もう1スクロールだけ」という気持ちになりやすく、気づけば長時間経っていることが多くあるのでおすすめできません。寝る前の時間帯は、意識的に刺激の少ないコンテンツを選ぶことで、脳の覚醒を抑えられます。
デバイス配置の工夫
行動デザインの観点から、物理的な距離を作るのも効果的です。ベッドから腕一本分外にスマホを置く、充電場所をベッドから離すといった小さな工夫が、無意識の手癖でスマホに手を伸ばすのを防いでくれます。
また、アラームを設定する場合は、専用の目覚まし時計を使うという選択肢もあります。「アラームのためにスマホを枕元に置かなければならない」という理由がなくなれば、夜中に通知が気になって目が覚めることも減るはずです。
まとめ:完璧を目指さず、できることから始める
ここまで見てきたように、「寝る前のスマホは危険」という論調は誇張された部分もありますが、長時間・高頻度の使用が睡眠に悪影響を与えるのは事実です。ただし、「完全禁止」は現実的ではありません。
睡眠ログアプリやスマートウォッチがあれば、自分の睡眠がどう変わるか記録してみるのもおすすめです。極端な警告に振り回されるより、自分のデータを信じる――それこそが、より的確なアプローチですね。
ログをとって完璧を目指す必要はありませんが、少しの工夫で睡眠の質が改善するなら、試してみる価値は十分にあるはずです。

