MacとAndroidスマホの間でファイルをやり取りするとき、多くの人が使ってきた「Android File Transfer」。でも実は、このアプリはすでに公式配布が終了しています。そして今、その空白を狙って「公式風」のダウンロードサイトや広告だらけのコピーサイトが次々と出現しています。
「前に使ってたから大丈夫だろう」と思って検索からたどり着いたサイトが、実は全く別の運営者による怪しいサイトだった…なんてことも十分ありえる状況なんですよね。そこで、Android File Transfer終了の経緯から、なぜコピーサイトが危険なのか、そして安全な代替手段まで詳しく解説していきます。
Android File Transfer終了の経緯と現状
Android File Transferは、長年にわたってMacとAndroidをUSB接続する際の定番ツールでした。Googleが公式に提供していたこともあり、多くのユーザーが安心して利用していました。
ところが2024年に入ってから、「ダウンロードできない」という報告が急増。実は2024年7月頃には、公式URLにアクセスしてもWindowsとAndroid間のファイル共有ツール「Quick Share」のページへ自動的にリダイレクトされるようになっていたんです。
2025年現在、GoogleサポートコミュニティでもAndroid File Transferの復活や再配布に関する案内はなく、Android File Transferは事実上の終了状態と言ってよい状況です。つまり、公式のアプリはもう入手できないと考えていいでしょう。
問題なのは、GoogleがMac向けの「純正後継アプリ」を用意していないこと。Quick ShareはWindows向けには提供されていますが、Mac版は存在しません。つまり、Mac×Androidユーザーは「公式の解決策がない」状態で放置されてしまったわけです。
このような状況が、後述するコピーサイト問題を生む土壌になってしまいました。
「それっぽい」配布サイトが危険な理由
公式配布が終了したことで、Android File Transferを求める人たちが検索やSNS経由でダウンロード先を探すようになりました。そこに付け込むように登場したのが、Android File Transferの旧公式ページを模したUIやロゴを使ったサイトです。

これらのサイトには、いくつかのパターンがあります。Homebrew版のAndroid File Transferへのリンクを掲載しているサイト、有料の代替アプリ(MacDroidなど)へのアフィリエイトリンクで収益を得ているサイト、そして中国系広告ネットワークを大量に埋め込んだサイトなど、さまざまな形態が確認されています。
「別に今すぐマルウェアを配ってるわけじゃないなら大丈夫では?」と思われるかもしれません。でも、ここに大きな落とし穴があるんです。
現時点では問題がなくても、こうしたサイトは「将来的にダウンロードファイルを差し替えられても気づきにくい」という構造的な危険性を抱えています。サイトの見た目が公式風だからこそ、ユーザーは「ここは信頼できる」と誤認してしまいやすいんですよね。しかも、本物の公式サイトが存在しない以上、比較して判断することもできません。
さらに言えば、ドメインの管理者情報が不明確だったり、広告収益モデルで運営されている場合、サイト自体が売却されて悪質な管理者の手に渡る可能性もゼロではありません。セキュリティ研究者の間では、こうした「信頼されている風のサイト」が、後から攻撃インフラに転用されるケースが実際に報告されています。
Homebrewを悪用したスキャム事例との共通点
実は、Android File Transfer問題と似たような手口が、すでに別の場所で発生しています。それが、Homebrew(Mac用のパッケージ管理ツール)を狙った詐欺サイト事例です。
2024年から2025年にかけて、Homebrew公式サイトを巧妙に模倣した偽サイトが複数報告されました。これらのサイトはGoogle広告経由でユーザーを誘導し、本物そっくりの見た目でHomebrewのインストール方法を案内します。ところが、サイトに書かれているcurlコマンドには「余計なペイロード」が仕込まれており、実行すると情報窃取型マルウェア「Amos Stealer」などが密かにインストールされてしまいます。
この攻撃の特徴は、見た目が本物と見分けがつかないレベルで精巧に作られていること。URLが公式の「brew.sh」によく似た別ドメインにリダイレクトされるケースが報告されており、見た目は本物そっくりでも、実際にはAmos Stealerなどの情報窃取マルウェアを配布していた事例があります。
Android File Transferのコピーサイトも、構造としてはこのHomebrew偽サイトとよく似ています。現時点で同じ種類のマルウェアが確認されているわけではありませんが、同様の手口に悪用されてもおかしくない土壌ができてしまっていると言えます。
公式が不在の今、URLが正しいかどうかを確認する基準すら曖昧な上、「Android File Transferっぽい名前のサイト」「それっぽいデザイン」「ダウンロードボタン」という外見。そうすると、Android File Transferの配布が終了したことを知らない人が「ここで合ってる」と判断してしまうわけです。
Android File Transferからの卒業:代替アプリと代替手段
すでにAndroid File Transferをインストール済みの方は、当面そのまま使い続けることもできます。ただし、公式サポートが終了している以上、将来的なmacOSアップデートで動作しなくなる可能性もあるため、早めに代替手段への移行を検討した方がいいでしょう。
正直なところ、2025年時点では「Android File Transferにこだわり続けるより、代替ワークフローへ移行した方が安全で将来性もある」というのが結論です。
有線転送系の代替アプリ
MacDroidは、有料ですが安定性が高く、Android File Transferの後継として利用している人も多いアプリです。USB接続でのファイル転送に加え、FTPやMTPプロトコルにも対応しているのが特徴です。
OpenMTPは、オープンソースの代替ツールで無料で使えます。ただし、開発が比較的ゆっくりな印象ですので、最新のmacOSやAndroidとの互換性は公式リポジトリや配布サイトで最新情報を確認したほうがいいでしょう。
無線転送系・クラウド系の選択肢
実は、「USBケーブルでの転送」という方法自体を見直すのも一つの手です。
AirDroidなどの無線転送アプリを使えば、同じWi-Fiネットワーク上でファイルをやり取りできます。ケーブルの抜き差しが不要なので、むしろ便利に感じる人も多いはずです。
クラウドストレージを経由する方法もあります。GoogleドライブやDropbox、OneDrive、iCloud Driveなどにスマホからファイルをアップロードし、Macでダウンロードする流れですね。リアルタイム性には欠けますが、ファイルのバックアップも兼ねられるのがメリットです。
NASを持っている人なら、NAS専用アプリを使ってスマホとMacの両方からアクセスする方法も有効です。家庭内ネットワークで完結するので、クラウドにデータを預けたくない人にはこちらが向いているでしょう。
個人的にはクラウドを使って経由させるのが最も手軽だと思います。実際、私はDropboxを使ってデータをやり取りすることがほとんどですが、他のクラウドサービスよりも転送速度が速く、ほとんどストレスを感じたことがありません。

まとめ:公式終了後のソフトウェアは特に注意が必要
Android File Transferの例は、「公式配布が終了したソフトウェア」を取り巻く危険性を象徴しています。需要があるのに供給が途絶えた状態は、悪意ある第三者にとって絶好のチャンスなんですよね。
今回の記事で最も伝えたいのは、「見た目が公式っぽい」というだけで信頼してはいけないということ。特にセキュリティに関わるツールやシステムアプリは、配布元を慎重に確認する必要があります。
もし、まだAndroid File Transferを探しているなら、ぜひこの機会に代替手段への移行を検討してみてください。最初は面倒に感じるかもしれませんが、長期的に見れば安全性と利便性の両方を手に入れることになります。

