2025年、日本でスマートフォンソフトウェア競争促進法、通称「スマホ新法」が施行されました。ニュースでは「サードパーティストア解禁」「外部決済が可能に」といった言葉が飛び交っていますが、実際のところ何がどう変わったのか、いまいちピンと来ていない方も多いのではないでしょうか。
そこで、スマホ新法による「ストア解禁」にフォーカスして、ユーザー目線で本当に知っておくべきことを整理していきます。「自由になった」と聞くと便利そうに感じますが、実は注意すべきポイントもたくさんあるんです。
スマホ新法とは?ストア解禁って何のこと?
まずは基本から押さえておきましょう。スマートフォンソフトウェア競争促進法は、簡単に言えば「AppleやGoogleが、自社のアプリストアや決済システムだけを優遇するのをやめなさい」という法律です。
これまでスマートフォンの世界では、AppleとGoogleという2大プラットフォーマーが強い影響力を持っていました。iPhoneユーザーは基本的にApp Storeからしかアプリを入手できず、Androidユーザーも事実上Google Play中心の環境でしたよね。アプリ内課金も両社のシステムを通す必要があり、その手数料は最大30%にも達していました。
新法はこうした状況に風穴を開けることを目的としています。具体的には次のような変化が起きています。
サードパーティストアの解禁
iPhoneでもApp Store以外のストアアプリからアプリをインストールできるようになります。Androidでは、以前から技術的には可能でしたが、今後はGoogle側が他社ストアを妨げる行為が規制され、より参入しやすくなるわけです。
外部決済の容認
アプリ内で自社の決済システムや外部の決済サービスを利用できるケースが広がりました。これにより、開発者はApple・Googleの手数料を回避しつつ、ユーザーに直接サービスを提供できる道が開けます。
ブラウザや検索エンジンの選択自由化
初期設定やアップデート時に、ブラウザや検索エンジンを選ぶ画面(チョイススクリーン)が表示されるようになります。
ただし、ここで誤解してはいけないのが、「完全に野良アプリが解禁された」わけではないということ。iPhoneの代替ストアは一定の認証をクリアする必要がありますし、法律も「安全性の担保」を無視しているわけではありません。「自由度が上がった」のは事実ですが、無法地帯になったわけではないんです。
何が変わるのか?制度としての「ストア解禁」を噛み砕く
では、具体的にどんな変化が起きるのでしょうか。iPhone・Android、それぞれの立場から見ていきましょう。
これまでの状況
iPhone
基本的にApp Storeからしかアプリを入手できない環境でした。企業向けの特殊な配布方法や、開発者向けのテスト環境などを除けば、一般ユーザーが公式ストア以外からアプリを入れる手段はほぼありません。
Android
技術的にはGoogle Play以外のストアも存在していました(Amazon AppstoreやGalaxy Storeなど)。ただし、Google Playの優遇措置や、外部決済への制約が多く、実質的にはGoogle中心の構図だったと言えます。
これから起きること
iPhone
「代替アプリマーケットプレイス」と呼ばれる、App Store以外のストアアプリをインストールできるようになります。このストア経由で、サードパーティが配信するアプリを入手可能です。
ただし、代替ストア自体がAppleの定める一定の条件や認証をクリアする必要があります。完全に審査なしの野良ストアが乱立するわけではありません。
Android
他社ストアや外部決済を妨げる行為がより厳しく規制されます。これにより、Googleの息がかかっていない独立系ストアや、ゲーム会社独自のストアなどが参入しやすくなるでしょう。
重要なポイント:「完全野良解禁」ではない
繰り返しになりますが、今回の法改正は「何でもアリ」にするものではありません。iPhoneの代替ストアには審査プロセスがあり、AndroidでもGoogle Play以外のストアに関して、OSレベルの警告表示や「不明なアプリのインストール」設定など、最低限の安全策は用意されています。
つまり、「AppleやGoogleが守ってくれる壁」は薄くなりましたが、まったくの無法地帯になったわけではないということ。この微妙なバランスを理解しておくことが大切です。
iPhoneとAndroid、それぞれどう変わる?
ここで、両プラットフォームの違いを表でまとめておきましょう。
| 項目 | iPhone | Android |
|---|---|---|
| アプリ入手ルート | App Store + 認証された代替ストア | Google Play + 他社ストア(これまでより参入しやすく) |
| 代替ストアの扱い | Appleの認証が必要。一定の審査あり | 妨害禁止だが、審査基準は各ストアに委ねられる |
| 外部決済 | アプリから外部サイトへの誘導が可能に | 同様に制約が緩和 |
| ユーザーが意識すべきこと | 代替ストア導入時の警告や設定を確認 | 信頼できないストアからのインストールを避ける設定 |
iPhoneのイメージ
「これまで完全に閉じていた壁に、小さなドアが開いた」という感じですね。ドアの向こうには便利な選択肢もありますが、Appleの厳しい審査が効かない世界も含まれています。
Androidのイメージ
もともと壁が低かったところに、「さらに門戸を広げる+締め出し禁止」がかかった形です。一見、変化は小さく見えるかもしれませんが、外部決済や自社ストアを持ちたい企業にとっては大きな追い風になります。
「解禁」は嬉しいだけではない:メリットとリスク
ストアの選択肢が増えることには、確かにメリットがあります。しかし、同時にリスクも生まれるんです。この両面をしっかり理解しておきましょう。
便利になるポイント
手数料競争による価格低下の可能性
AppleやGoogleの手数料を回避できるようになれば、開発者側のコストが下がります。その結果、アプリの価格やサブスクリプション料金が安くなる可能性もあります。
特化型ストアの登場
ゲーム専門、クリエイター向けツール専門など、特定ジャンルに特化したストアが出てくるかもしれません。マニアックなアプリを探しやすくなる、なんてこともあり得ますね。
サービスの選択肢拡大
これまでApp StoreやGoogle Playの規約に引っかかって配信できなかったサービスが、代替ストア経由で利用できるようになるケースもあるでしょう。
新しく生まれる危険
審査が緩いストアの増加
代替ストアの中には、審査基準が甘かったり、ほぼ無審査だったりするものも出てくるはずです。そうなると、マルウェアや詐欺アプリが混入しやすくなります。
導線の複雑化とフィッシングリスク
「広告→怪しいストア→危険アプリ」という導線が成立しやすくなるんです。これまでは「App StoreやGoogle Playだけ見ていればまあ安全」という前提がありましたが、その前提が崩れてしまいます。
フィルタリングの限界
青少年向けのフィルタリングやペアレンタルコントロールが、代替ストア経由のアプリには十分に効かない可能性があります。保護者の方は特に注意が必要ですね。
要するに、「自由になった分、自分で判断しなければいけないことが増えた」ということ。これまでAppleやGoogleに守ってもらっていた部分を、自分で補う必要が出てきたわけです。
Kindleの例で見る「外部決済」の現実
外部決済解禁の具体例として、Kindleアプリを見てみましょう。以前のKindleアプリは、iPhoneでもAndroidでも、アプリ内で直接本を購入するボタンがありませんでした。欲しい本を見つけても、わざわざブラウザでAmazonのサイトを開いて購入する必要があったんです。
これは、AppleやGoogleの規約で「アプリ内課金は公式の決済システムを使うこと」と決められていたため。Amazon側はこの手数料を払いたくなかったので、購入ボタン自体を削除していたんですね。
現在はどうなっている?
スマホ新法への対応の一環として、Kindleアプリからブラウザの購入ページへ直接飛べるボタンが設置されるようになりました。「アプリ内で完結」とまではいきませんが、以前よりはずっと楽になっています。



ただし、ここで理解しておきたいのは、法律が変わったからといって、必ずしも「アプリ内決済が復活する」わけではないということ。多くのケースでは「アプリ→公式サイトで購入→アプリで利用」という導線になるでしょう。
新たなリスク:フィッシング詐欺の増加
アプリから外部サイトへの誘導が増えると、厄介な問題も生まれます。それが「本物そっくりの偽サイト」に飛ばされるフィッシング詐欺です。
悪意のある開発者が、正規のアプリに似せた偽アプリを作り、偽の決済サイトへ誘導する。ユーザーは正規の流れだと思って個人情報やクレジットカード情報を入力してしまう…。こういったケースが増える可能性は十分にあります。
だからこそ、「アプリから開いたから安全」と思い込まず、URLやドメインをしっかり確認する習慣が必要になるんです。
「結局、自分はどうすればいいの?」実務的な4つのルール
さて、ここまでの内容を踏まえて、ユーザーはどう振る舞えばいいのか?具体的な行動指針を4つのルールにまとめました。
ルール1:基本は公式ストア+公式決済を使う
代替ストアは確かに便利な面もありますが、安全性の担保が公式ストアには及びません。特に初心者の方、お子さん、ご高齢の方には、「App StoreやGoogle Play以外からアプリを入れない」を徹底するようにした方がいいでしょう。
迷ったときは、まず公式ストアで探してみる。それで見つからなければ、本当に必要なアプリなのか再考する。このくらい慎重でちょうどいいと思います。
ルール2:代替ストアは「玄人向け機能」だと割り切る
代替ストアは「上級者向けの機能」と認識した方が安全です。もし、代替ストアを利用する場合は、次のポイントをチェックしましょう。
- 運営企業がはっきりしているか
- 公式サイトから直接ダウンロードしているか
- IT専門家やレビューサイトで評価されているか
広告経由でストアアプリや怪しいアプリを入れるのは絶対に避けてください。これだけでリスクを大幅に減らせます。
ルール3:信頼できないリンクは絶対に使わない
ここで特に警戒すべきなのは、広告やメール経由で表示された外部リンク、代替ストアから入手した審査の甘いアプリからの外部リンクです。これらは本物そっくりの偽サイトに誘導されるフィッシング詐欺の温床になります。
絶対に避けるべき行動:
- 広告に表示されたリンクからアプリをインストールする
- メールで案内されたリンクからアプリをインストールする
- SNSの怪しい投稿からアプリをダウンロードする
- こうした経路で入手したアプリからの外部リンクをクリックする
これはメールのリンクから偽サイトに誘導されるフィッシング詐欺と全く同じ手口なんです。
公式ストアから入手した正規アプリの場合
App StoreやGoogle Playから入手したKindleのような正規アプリであれば、基本的には安全です。ただし、より慎重を期すなら、アプリは「閲覧・利用」専用と割り切り、購入や決済が必要なときは公式サイトをブックマークしておき、そこから直接アクセスする習慣をつけるとより安心ですね。
ルール4:家族・子ども向けには設定と教育をセットで
お子さんやスマホに不慣れなご家族がいる場合は、設定と教育を両方行いましょう。
設定面
- 代替ストアのインストールを制限する設定を確認
- ペアレンタルコントロールを活用
- 不明なソースからのインストールをオフに(Android)
教育面
- 「知らないストアからアプリを入れない」を家庭内ルールにする
- 広告をタップする前に保護者に確認させる
- 何か変だと思ったら、すぐに相談するよう伝える
技術だけでは守りきれない部分があるからこそ、家族間のコミュニケーションが重要になってきます。
まとめ:自由度が上がったぶん、「守ってくれる壁」は薄くなる
スマホ新法による「ストア解禁」は、ユーザーと開発者の両方にとって、確かに自由度と選択肢を増やすものです。手数料が下がって価格が安くなったり、これまで使えなかったサービスが利用できるようになったりするメリットは存在します。
しかし同時に、これは「AppleやGoogleがすべてを守ってくれる世界」が終わったことを意味しています。公式ストアの審査という安全網が常に機能するとは限らず、私たちユーザー自身が判断しなければならない場面が増えるわけです。
「とりあえず外部ストアも使ってみる」は危険です。自分のITリテラシーや家族構成、利用目的に応じて、どこまで新しい選択肢に踏み込むかを慎重に考える必要があります。

