Appleが2020年にIntelプロセッサからの移行を開始して以来、Mシリーズチップは着実な進化を続けてきました。M1で驚異的なパフォーマンスと省電力性能を実現し、M2、M3と世代を重ねるごとに性能向上を重ね、2024年に登場したM4チップは、さらなる効率化と性能向上を実現しました。
そして2025年10月、Appleは最新のM5チップを発表しました。このチップが注目を集めているのは、単なる性能向上にとどまらず、AI処理能力に特化した大幅な進化を遂げているためです。特にオンデバイスAI処理の強化は、Apple Intelligenceの本格展開を見据えた戦略的な改良と言えるでしょう。
そこで、M5とM4の違いを詳しく解説しながら、どんな人にM5が必要なのか、逆にM4で十分なケースはどういった場合なのかを解説していきます。
M5とM4のスペック比較
まずは両チップの基本スペックを表で比較してみましょう。数字だけ見てもわかりにくい部分は、後の章で詳しく説明していきます。
| 項目 | M5 | M4 | 向上率 |
|---|---|---|---|
| CPU構成 | 10コア(高性能4+高効率6) | 10コア(高性能4+高効率6) | 同じ |
| マルチスレッド性能 | 最大15%高速 | 基準値 | +15% |
| GPUコア | 10コア+各コアにニューラルアクセラレータ搭載 | 10コア | NA追加 |
| ピークGPU性能 | 4倍高速 | 基準値 | +300% |
| レイトレーシング | 第3世代、45%高速 | 第2世代 | +45% |
| Neural Engine | 16コア(改良版) | 16コア | 強化 |
| メモリ帯域幅 | 153GB/s | 120GB/s | +27.5% |
| 製造プロセス | TSMC 第3世代3nm | TSMC 第2世代3nm | 進化 |
CPU性能について
CPUのコア構成自体はM4と変わりません。高性能コア4つと高効率コア6つの組み合わせで、Appleは引き続き「世界最速のパフォーマンスコア」と主張しています。マルチスレッド性能は最大15%向上していますが、これは劇的な変化とは言えないレベルですね。
つまり、通常のアプリケーション実行やWebブラウジング、オフィス作業といった日常的な用途では、M4とM5の体感差はほとんど感じられない可能性が高いです。
製造プロセスの進化
両チップともTSMCの3nmプロセスで製造されていますが、M5では第3世代の3nm技術が採用されました。これにより電力効率がさらに改善され、同じ性能でもより少ない電力で動作するようになっています。
AI性能強化とその意味
M5チップの最大の特徴は、AI処理能力の大幅な強化です。ここがM4との決定的な違いと言えます。
ニューラルアクセラレータとは
M5では、10個あるGPUコアのそれぞれに「ニューラルアクセラレータ」という専用のAI処理ユニットが組み込まれました。これは小型のNeural Engineのようなもので、GPUと連携してAI処理を高速化するんです。
従来のM4では、16コアのNeural Engineがメインでmachine learning処理を担当していました。M5でもこのNeural Engine自体が改良されているのですが、それに加えて各GPUコアにもAI処理能力が備わったことで、まさに「チップ全体でAI処理を行う」体制が整ったわけですね。
実際のAI処理でどれくらい速くなる?
Appleが公表している性能向上の数字は次のとおりです。
- 大規模言語モデル(LLM)の最初のトークン生成: 3.6倍高速
- Topaz VideoでのAI動画エンハンスメント: 1.8倍高速
- Adobe Premiere ProでのAI音声補正: 2.9倍高速
- Blenderでのレイトレースレンダリング: 1.7倍高速
全体的に、デバイス内で完結するAI処理が劇的に速くなっていることがわかります。
つまり、インターネット接続を必要とせず、チップ内だけで動作するAI機能が高速化されるんですね。具体的には、写真や動画の編集時にAIを使った補正や加工、文章の要約や生成、画像認識といった処理が格段に快適になります。
Apple Intelligenceとの関係
AppleはiOS 18.1、iPadOS 18.1、macOS Sequoia 15.1以降で「Apple Intelligence」という独自のAI機能群を展開しています(やや期待外れではありますが)。文章の要約、画像生成、通知の要約など、さまざまな場面でAIが活用されるようになりました。
重要なのは、これらの処理がすべてオンデバイス、つまりチップ内で完結するという点です。クラウドにデータを送信する必要がないため、プライバシーが保護され、ネット接続がない環境でも利用できるんですね。
M5のAI性能強化は、まさにこのApple Intelligenceの本格活用を見据えたものと言えます。将来的にはさらに高度なAI機能が追加される可能性もあり、M5チップはその準備が整っているわけです。
グラフィックス&メモリ帯域の強化
AI性能の陰に隠れがちですが、M5のグラフィックス性能も大幅に向上しています。
GPUの進化ポイント
前述したように、各GPUコアにニューラルアクセラレータが追加されたことで、ピークGPU性能は4倍に達しました。この「4倍」という数字は、特にAIを活用したグラフィックス処理において発揮されます。
例えば、写真編集アプリで背景をぼかしたり、動画編集で被写体を自動追跡したりする際、AIとGPUが協調して動作するんです。M5ではこの連携が強化されているため、こうした処理が飛躍的に速くなりました。
第3世代レイトレーシングエンジン
レイトレーシングとは、光の反射や屈折を物理的にシミュレートすることで、よりリアルな映像を作り出す技術です。ゲームや3DCG制作では重要な機能ですね。
M5では第3世代のレイトレーシングエンジンが搭載され、M4の第2世代と比べて45%高速化されました。これにより、3Dゲームのグラフィックスがより美しく滑らかに描画可能。また、BlenderやCinema 4Dといった3DCGソフトでのレンダリング時間も大幅な短縮が期待できます。
メモリ帯域幅の意味
M5のユニファイドメモリ帯域幅は153GB/s。M4の120GB/sから27.5%向上しています。
「帯域幅」と聞くとピンとこないかもしれませんが、これはチップ内でデータがどれだけ速く移動できるかを示す指標です。高速道路に例えると、車線が増えて渋滞が解消されたようなイメージですね。
この向上が特に効果を発揮するのは次のような場面です。
- 大容量の写真や動画ファイルを扱う作業
- 複数のアプリを同時に動かす場合
- AI処理で大量のデータを素早く読み書きする必要がある時
- 8K動画の編集やレンダリング
一般的なWebブラウジングや文書作成では体感しにくいですが、クリエイティブな作業をする人にとっては重要な改善点です。
実際の搭載製品ラインナップ+用途別比較
M5またはM4が搭載されている製品は次のとおりです。
M5搭載製品(2025年10月発売)
- 14インチMacBook Pro:プロフェッショナル向けノートPC。最大4TBストレージ(従来は最大2TB)

- iPad Pro:タブレットとしては最高峰の性能


- Vision Pro:空間コンピューティング用ヘッドセット
M4搭載製品(2024年発売)
- iPad Pro(第7世代)
- iMac(2024年モデル)

- Mac mini(2024年モデル)

- MacBook Air(2024年モデル)

- MacBook Pro(2024年モデル)

どんな人にM5が必要?
M5チップを選ぶべきなのは次のような人ですね。
プロのクリエイター:動画編集、3DCG、音楽制作など、AIを活用した高度な編集作業を日常的に行う人。レンダリング時間の短縮は仕事の効率に直結しますよね。
AI開発者:オンデバイスでのmachine learningモデルの開発やテストを行う人。3.6倍速いLLM処理は開発サイクルを大幅に短縮します。
ゲーマー:最新のレイトレーシング対応ゲームを最高画質で楽しみたい人。ただし、現時点でMac対応のAAAタイトルはまだ限られています。
将来を見据えた投資:5年以上同じデバイスを使い続ける予定で、将来のApple Intelligence機能をフル活用したい人。
M4で十分なケースは?
一方、次のような使い方なら、M4チップで十分満足できると思います。
一般的なオフィスワーク:Microsoft Officeやブラウザベースのアプリケーションがメイン。メール、Web会議、資料作成程度ならM4でも快適です。
趣味レベルの写真・動画編集:たまに家族の写真を編集したり、旅行動画を作る程度なら、M4の性能で不足することはありません。
学生:レポート作成、プログラミング学習、講義動画の視聴など、学業用途であればM4で問題ないですね。
予算重視:M5搭載デバイスは最新モデルのため価格が高めです。M4搭載の旧モデルは徐々に値下がりするため、コストパフォーマンスを重視するならM4が賢い選択です。
Apple公式以外のベンチマーク・実例紹介
Geekbench MLスコア
machine learning処理の性能を測定する標準的なベンチマークテストです。現時点で公開されている情報では、M5はM4と比較して約2.8倍のスコアを記録しているとのこと。これはAppleが主張する「3.6倍速い」という数字にかなり近い実測値ですね。
動画編集の実測タイム
複数のYouTuberやテックブロガーによるレビューでは、Final Cut ProやAdobe Premiere Proでの4K動画の書き出し時間が、M4比で約1.5〜1.8倍高速化されたと報告されています。ただし、エフェクトやAI機能をどれだけ使うかによって差は変わってきます。
3DCGレンダリング
BlenderのCycles X レンダリングエンジンを使った実測では、同じシーンのレンダリング時間がM4で約12分かかっていたものが、M5では約7分に短縮されたという報告があります。レイトレーシングを多用するシーンでは、この差がさらに広がる傾向があるようです。
発熱とファン動作
興味深いのは、M5搭載MacBook Proでは高負荷時のファン音がM4と比べてやや静かになったという報告が複数あることです。第3世代3nmプロセスの効率向上により、同じ性能でも発熱が抑えられているためと考えられます。
注意点
ベンチマークスコアは参考値であり、実際の使用感は作業内容やソフトウェアの最適化状況によって変わります。また、現時点ではまだM5搭載デバイスが発売されたばかりで、長期的な使用レポートは限られています。今後、より多くの実例が報告されてくるでしょう。
よくある不安や疑問
発熱・バッテリー消費はどう?
M5は第3世代3nmプロセスを採用しているため、M4と比べて電力効率が向上しています。Appleの公式発表では、バッテリー駆動時間はM4搭載モデルと同等以上とされていますね。
実際のレビューでは、軽作業時のバッテリー持ちはほぼ同じか、わずかに良くなったという報告が多いです。ただし、AI処理やGPUを酷使する作業を続けた場合、高性能を発揮する分だけ電力を消費するため、この点は使い方次第と言えるでしょう。
発熱については、前述したように第3世代3nmプロセスの恩恵で、同じ負荷でもM4より若干低温で動作する傾向があります。MacBook Proのようにファンがあるモデルでは、ファンノイズがやや抑えられているという報告もありますね。
通常利用でM5の違いを体感できる?
正直に言うと、Web閲覧、メール、文書作成、動画視聴といった日常的な用途では、M4とM5の差を体感することは難しいでしょう。
体感できる可能性があるのは次のような場面です。
- AI機能を使った写真の背景削除や画質向上
- Siriや音声入力の応答速度
- Apple Intelligenceの文章要約や画像生成
- 重いWebアプリケーション(Google Sheets、Figmaなど)の動作
将来的にApple Intelligenceの機能が拡充されれば、日常的にも差を感じられる場面が増える可能性はあります。しかし現時点では、専門的な作業をしない限り「劇的な違い」を感じることは少ないと考えておいた方がよいでしょう。
サポート年数や将来のOS対応は?
AppleはMacやiPadを通常7〜8年間サポートします。M5チップは2025年発売なので、少なくとも2032〜2033年頃までは最新のmacOSやiPadOSに対応すると予想されます。
M4チップも2024年発売なので、サポート期間に大きな差はないと思われます。ただし、AI機能に関しては将来的に差が出てくる可能性があります。
例えば、数年後に登場するかもしれない「より高度なApple Intelligence機能」がM5以降を必須とする、といったケースは考えられますね。これはM1世代でApple Intelligenceの一部機能が利用できないのと同じような状況です。
長期的な視点で見れば、M5の方が将来の新機能に対応できる期間が長い可能性は高いです。しかし、M4も当面は十分に最新機能を利用できるはずですので、極端に心配する必要はありません。
まとめ・おすすめの選び方
というわけで、M5とM4の違いについて解説してきました。M5チップは、AppleがAI時代に向けて開発した最新のプロセッサです。CPU構成自体はM4と同じ10コアですが、AI処理能力とグラフィックス性能で大きな進化を遂げています。
一方で、日常的なWeb閲覧やオフィスワークでは、M4との体感差は少ないのが実情です。M5の真価を発揮できるのは、動画編集、3DCG、AI開発といった専門的な作業をする場合になります。
つまり、M5は素晴らしいチップですが、万人に必要なわけではありません。自分の使い方と予算に合わせて、選ぶといいでしょう。
参考リンク・情報源一覧

