最近、AI専用端末の開発競争が激しくなっていますよね。特にOpenAIがジョニー・アイブと立ち上げたデザイン会社「io」を約64億ドル相当の株式で買収し、AI端末の開発を本格化させているというニュースは、テック業界に大きな波紋を広げました。
「スマホの次」をうたう動きは確かに魅力的に聞こえます。でも、実際に登場したAI端末を見てみると、違和感を覚えてしまいます。これって結局、スマホの横にある余計なものでは?
この違和感は、実は過去の歴史から説明できます。そこで、PDAからスマホへの転換という歴史を振り返りながら、AI端末が本当に「スマホの次」になれるのかを考えてみます。
PDA時代の教訓:なぜ「PCの補佐役」は主役になれなかったのか
まず、スマホが登場する前のモバイル端末の歴史を追ってみます。1990年代から2000年代前半にかけて、PDA(Personal Digital Assistant)という製品カテゴリーが存在していました。
PDAは予定表や連絡先、メモといったPCのPIM機能を持ち歩けるようにした端末のこと。PalmやPocket PCといった製品が人気を集めていた時期もありました。個人的にはPalmを愛用していました。
しかし結局、PDAは一部のビジネスマンやガジェット好きの間でしか普及せず、一般の人々の生活に浸透することはありませんでした。
なぜPDAは主流になれなかったのか?最大の理由は、PDAが「PCのアクセサリ」として設計されていたからです。データはPCと同期して使うことが前提で、PDA単体では機能が限られていました。あくまでPCの補佐役という位置づけだったわけですね。
iPhoneが変えたもの:スペックではなくインターフェースの革新
2007年、ついにiPhoneが登場します。ですが、iPhone自体、スペック面では特別優れていたわけではありませんでした。当時のスマートフォンと比べても、機能的には劣る部分すらあったんです。
それでもiPhoneが革命を起こせたのは、まったく新しいインターフェースを実現したからです。フルタッチスクリーン、マルチタッチジェスチャー、加速度センサーなど、複数の技術を組み合わせて直感的な操作を可能にしました。
さらに重要だったのは、iPhoneが「電話+iPod+インターネット」を一体化させ、常時ネット接続を前提に設計されていたこと。PCの補佐役ではなく、日常の主役デバイスとして機能するように作られていました。
つまり、次の時代を決めたのは性能の向上ではなく、インターフェースの飛躍的な進化だったということです。
HumaneとRabbitが示した「悪い前例」
では、最近登場したAI端末はどうでしょうか。まず2024年に大きな注目を集めたHumane Ai PinとRabbit R1について見てみます。
Humane Ai Pinは胸に装着するピン型デバイスで、「スマホを置き換える」「アプリ不要」という大胆なコンセプトを掲げていました。音声とプロジェクターで操作する未来的なデザインに、多くの人が期待を寄せたんです。
Rabbit R1もスマートフォンを代替する専用AI端末として登場しました。オレンジ色のかわいらしいデザインで、音声操作で様々なタスクをこなせるとうたっていました。
しかし、実際にレビューが出始めると、評価は厳しいものばかり。どちらの製品も反応の遅さ、操作の不安定さ、視認性の悪さといった問題が顕著で、結局「スマホで同じことをした方が速くて確実」という結論に落ち着いてしまいました。
特に問題だったのは、日常利用での直感性が大きく損なわれていたこと。音声入力は便利そうに見えますが、実際には周囲の環境によって使えない場面が多いですよね。満員電車やカフェで音声コマンドを叫ぶわけにはいきません。
Rabbit R1に至っては、その中身が実質Androidアプリで完結するレベルだったと報じられ、「専用ハードである意味がない」という厳しい評価を受けました。

結果として、これらの製品は「インターフェースとして退化したスマホ」と見なされることになりました。
OpenAIのAI端末構想:本当に「次」なのか?
では、OpenAIとジョニー・アイブが開発しているAI端末はどうでしょうか。報道によると、すでにプロトタイプ段階に入っていると伝えられています。
ジョニー・アイブといえば、iPhoneやiPadのデザインを手がけた伝説的デザイナーですよね。その彼が関わっているということで、期待値は非常に高まっています。
ただし、現時点で見えてくる情報を整理すると、OpenAIの端末は「スマホ代替」ではなく、ChatGPTを環境に溶け込ませるデバイスという方向性のようです。具体的には、卓上に置く常時オンのスクリーンレスデバイスや、ポケットに入るサイズの小型端末、さらにはペン型デバイスといった複数のフォームファクタが検討されていると噂されています。
これって、結局は「スマホの横にある高機能アクセサリ」に近いイメージ。スマホを完全に置き換えるというより、スマホを補完する位置づけに見えます。
もちろん、OpenAIとジョニー・アイブのチームなら何か革新的なアイデアを持っているかもしれません。でも、現時点の情報だけでは、PDA時代と同じような「主役になれない補佐役」のパターンに見えてしまうのも事実。
ただし、OpenAI側の意図も理解しておく必要があります。サム・アルトマンCEOは「通知過多でノイズだらけのスマホ体験から脱却したい」「タイムズスクエアのような喧騒ではなく、湖畔のキャビンのような穏やかな体験を目指す」といったメッセージを発信しています。つまり、単なるスマホのコピーを作ろうとしているわけではなく、まったく異なる価値提案を模索しているんですね。
とはいえ、そうした理想と現実の間には大きな隔たりがあるのも確かです。
「次のスマホ」になるための3つの条件
ここで、過去の歴史から学べることって何か?PDAからスマホへの転換は、「PCの従属端末」から「常に手元にある主役デバイス」への役割変化を起こしました。それを可能にしたのがインターフェースの再発明だったわけです。
同じ観点で考えると、AI端末が本当に「次のスマホ」になるには、少なくとも次のようなUI上の飛躍が必要ではないでしょうか。
入力方法の革新
正直に言って、音声だけでは不十分。視線、ジェスチャ、状況などを組み合わせて、「こうしたい」という意図がほぼ無意識レベルで伝わる必要があります。満員電車でも、会議中でも、寝る前の暗い部屋でも、シームレスに使えないといけません。
出力方法の革新
スマホの画面を前提にするのではなく、その場のコンテキスト(空間・モノ・人)に合わせて情報を返す必要があります。空間ディスプレイ、音、触覚など、環境統合的な情報提示ができないと、結局スマホを見た方が早いということになってしまいます。
役割の再定義
PCやスマホの「補佐」ではなく、「日常の意思決定と行動を先回りして支援するエージェント」として、行動の起点になれることが重要。ユーザーが何かを指示する前に、必要なことを提案してくれるレベルの賢さが求められます。
現状のAI端末は、この3つの条件のうち「一部だけ」をかじっているに過ぎません。音声入力は実現していても、それ以外の入力方法は未熟。出力も結局は小さなスクリーンやプロジェクター。役割もスマホの代替というより、特定用途の補完的なものになっています。
総合的な体験としては「スマホより不便」なんです。これでは主役にはなれないですね。
2020年代後半、AI端末はどこまで行けるのか
スマホは、NPUや生成AI連携で進化を続けており、「AIを使いたければまずスマホ」で済んでしまう状況が続いています。
AppleのApple Intelligence、GoogleのGemini、SamsungのGalaxy AIなど、主要メーカーはすべてスマホへのAI統合を進めている途中。わざわざ別のデバイスを持ち歩く必要性が、なかなか見出せないです。
こうした状況を考えると、2020年代後半から2030年代前半くらいまでは、「スマホの次」というより、スマホ・PC・クラウドの間を取り持つ「環境的AIエージェント端末」がニッチから準メインストリームで伸びる形になりそうです。
具体的には、AIメガネ、AIピン、AIペン、卓上AIデバイスといった形で、特定のシーンや用途に特化した製品が増えていくように思います。たとえば、家庭内では卓上の常時オンAIデバイスが家族の予定管理やスマートホーム制御を担当し、屋外ではスマホやウェアラブルが補完する、といった役割分担が考えられます。でも、それらはあくまでスマホを補完するものであって、置き換えるものではなさそうです。
まとめ:インターフェースの再発明が見えるまで、スマホの王座は揺がない
PDAからスマホへのブレイクスルーは、「AIそのもの」ではなく、「新しいインターフェースの発明」です。
今のAI端末は、高性能なAIを搭載していますが、それを使うためのインターフェースが革新的ではありません。音声入力とスクリーンという、既存の延長線上にあるんです。
本当の「次のスマホ」が登場するには、私たちの想像を超えるようなインターフェースの再発明が必要です。それが何になるのか、現時点では正直わからないですね。
現時点のAI端末は、PDA期のスマートフォンに近い「過渡期の実験」だと考えるべきでしょう。試行錯誤の中から、いずれ本物の革新が生まれるかもしれません。でも、それはまだ先の話だと思います。
OpenAIとジョニー・アイブのプロジェクトには大いに期待していますが、それでもスマホを超えるのは容易ではないでしょう。スマホは今でも進化を続けており、そこにAIが統合されることで、当面は「スマホ+AI」が現実的な主役であり続けそうです。
(そもそもメモリ高騰の原因がAIなので、ヘイトを買いつつある存在にもなっています)
「次」を待ちながら「今」を最大限に活用する──それが2020年代後半の賢いスタンスかもしれません。

