少し前に、AI専用端末が「スマホの補佐役」にとどまっている現状について考察した記事をアップしました。HumaneのAI PinやRabbit R1といった製品は、結局スマートフォンを置き換えるまでには至らず、むしろスマホと併用する「サブデバイス」として位置づけられているという結論になりました。
そんな中、OpenAIがペン型のAIデバイスを開発しているという新たな噂が浮上してきました。これは果たして「スマホの次」となる可能性を秘めているのでしょうか。そこで、このリーク情報を起点に、AI端末の未来についてもう一歩踏み込んで考えてみたいと思います。
ペン型AIデバイス、その実態は?
まず、前回の記事は次のもの。もしよかったら併せてご覧ください。
OpenAIとJony Iveの元デザイン会社LoveFrom(現在はOpenAIに統合された「io」)が共同開発しているAIデバイスについては、法廷文書やメディア報道からいくつかの事実が見えてきています。
公式に確認されている情報
- 商標訴訟関連の法廷文書により、初号機はウェアラブルデバイスでもインイヤーデバイスでもないことが明示されています
- 少なくとも2026年より前には出荷されないとのこと
- Wall Street Journalは、このデバイスが「ユーザーの周囲環境や人生を完全に認識できる」能力を持つと報じています
リーク・推測レベルの情報
- 開発コードネームは「Gumdrop」とされ、ペン型を含む複数のフォームファクタが検討されていると報じられています
- 一部報道では、iPod shuffle程度の小型サイズでペン型デザインが検討候補の一つとして挙げられています
- マイクとカメラを内蔵し、手書き文字をテキスト化してChatGPTと連携する機能が想定されているとのこと
- 発売時期は2026〜2027年を見込むと報じられています
- 製造元は、中国系のLuxshareから台湾のFoxconnに移行する方針だと、台湾メディアUDNなどがサプライチェーン筋の話として報じています
ここで重要なのは、「ペン型」はあくまでリーク段階の情報であり、複数検討中のフォームファクタの一つに過ぎないという点です。
とはいえ、法廷文書から見えてくる「ウェアラブルではない」「環境認識能力を持つ」という方向性と、ペン型というリークを組み合わせると、興味深い可能性が見えてきます。特に「ペン型」というインターフェースの選択は、これまでのAI端末とは異なるアプローチを感じさせるものです。
「書く」というインターフェース、その先にあるもの
前回の記事で「インターフェースの再発明」が鍵だと書きました。実際、HumaneやRabbitが苦戦した大きな理由の一つは、音声中心のUIが想像以上に使いにくかったことにあります。
仮にペン型デバイスが実現するとすれば、この問題に対して新しい解決策を提示する可能性があります。しかし同時に、WSJが報じた「ユーザーの環境を完全に認識する」という方向性を考えると、単なる手書き入力デバイスにとどまらない、より野心的な構想が見えてきます。
もしペン型が実現した場合の強み
手書き入力とAIの組み合わせには、理論上いくつかの利点が考えられます。
- マルチモーダル入力の実現:図や数式、メモといった視覚的な情報をそのままAIに読み込ませられる点が大きな特徴になるでしょう。これはマルチモーダルAIの強みを最大限に活かせる入力方法といえます。
- 低フリクションな操作性:「取り出してサッと書く」という行為自体の気軽さも魅力的です。スマホを開いてアプリを起動して…という手順と比べると、紙にペンで書くような感覚でAIにアクセスできるというのは理に適っていますよね。
ただし、「環境認識能力」という報道を踏まえると、単純な手書き入力デバイスではなく、カメラとマイクを活用して周囲の状況を常時把握するようなデバイスになる可能性もあります。その場合、ペン型という形状が本当に最適なのか、という疑問も生じてきます。
しかし課題も見えてくる
一方で、ペン型デバイスには構造的な弱点もあります。最大の問題は、出力(フィードバック)をどう実現するかという点です。
現時点の報道では「スクリーンレス」寄りのデザインが示唆されているため、AIからの応答は音声が中心になると考えられます。しかし、複雑な情報や長文の回答を音声だけで受け取るのは、正直なところ現実的とは言えません。結果として、スマホの画面で確認する必要が出てくるわけです。
つまり、「ペンで入力→スマホで確認」という二段階の操作が発生してしまう。これでは、最初からスマホで完結させた方が早いのではないか、という疑問が湧いてきます。
「第三のデバイス」は本当に必要なのか
一部の海外メディアは、このペン型デバイスを「iPhoneとMacBookに続く第三のコアデバイスを狙う試み」と評しています。また、「スマホの横に置くコンパニオンデバイス」という位置づけも報じられています。
ここで思い出したいのが、前回触れたPDAの歴史です。PDAはPCの補佐役として登場しましたが、結局主役にはなれませんでした。最近のAI専用端末も、スマホの補佐役という立ち位置から抜け出せていない状況です。
OpenAIのペン型デバイスは、どちら側に転ぶのでしょうか。
シナリオA:環境的AIエージェント端末として成立する可能性
楽観的に見れば、「スマホ+PC+クラウド」の間を取り持つ存在として機能する道はあります。例えば、会議中の手書きメモや音声を自動的に整理してクラウドに保存し、PCやスマホからいつでもアクセスできる、といった使い方です。
デバイス単体で完結しようとするのではなく、エコシステム全体の入力装置として特化するなら、存在意義は見出せるかもしれません。
シナリオB:やはりスマホの「横にあるガジェット」止まり
しかし現実的に考えると、依然として「スマホの横にあるガジェット」という立ち位置から脱却するのは難しそうです。
日常生活の中で、このペン型デバイスが行動の起点になるでしょうか。朝起きたら最初に手に取るのは、やはりスマホですよね。連絡を取るのも、情報を調べるのも、エンターテインメントを楽しむのも、すべてスマホが中心になっています。
ペン型デバイスは特定の用途では便利かもしれませんが、スマホの王座を脅かすほどの存在になるとは考えにくいのです。
2020年代後半、AI端末の現実的な落としどころ
前回の記事では、2020年代後半から2030年代前半にかけて、「スマホ+AI」が主役であり、専用AI端末はニッチな用途に特化した存在にとどまるだろうと結論づけました。
今回のペン型デバイスのリークを踏まえても、この見立ては変わりません。ただし、具体的なユースケースは見えてきたように思います。
実用的なユースケース
ペン型AIデバイスが活躍できそうな場面をいくつか挙げてみましょう。
- 会議での議事録作成:手書きメモと音声を組み合わせて、リアルタイムで議事録を生成できれば、会議後の作業が大幅に削減できますよね。
- 学習ノートのデジタル化:ノートに書いた内容を自動的に整理してデジタル化し、後から検索できるようにする。数式や図表も含めて保存できるなら、学生や研究者にとって便利なツールになるでしょう。
- 設計図からコード生成:エンジニアなら、ホワイトボードに描いた設計図をその場でコードや仕様書に変換する、といった使い方も考えられます。
既存のAIノートアプリやスマートペンとの違いは、ChatGPTとの深い統合によって、単なる記録以上の知的作業支援が期待できる点にあるかもしれません。
それでもスマホの王座は揺るがない
しかし、これらはいずれも特定の状況下での便利ツールという域を出ません。日常生活全体を見渡したとき、スマホの代わりになるかと問われれば、答えはノーです。
結局のところ、2020年代のAI端末は「スマホを補完する存在」として位置づけられ、一部の用途では重宝されるものの、メインデバイスの座を奪うまでには至らない。これが現実的な着地点だと考えています。
まとめ:OpenAIのAIデバイス、現時点で見えているもの
OpenAIとJony Iveが開発中のAIデバイスについて、現時点でわかっていることを整理してみました。
法廷文書から確認できる事実は、「ウェアラブルではない」「2026年前には出ない」「ユーザーの環境を認識する能力を持つ」といった点です。一方で、ペン型というのはあくまでリーク段階の情報で、複数のフォームファクタが検討されている中の一つに過ぎません。
もしペン型が実現すれば、手書き入力とAIの組み合わせという新しいアプローチになります。マルチモーダル入力の可能性は魅力的ですが、出力をどうするかという課題や、本当にスマホより便利なのかという根本的な疑問は残ります。
前回の記事で考察したように、AI専用端末は今のところ「スマホの補佐役」という立ち位置から抜け出せていません。OpenAIのデバイスも、特定の用途では便利かもしれませんが、スマホの王座を脅かすほどの存在になるかは未知数です。
ペン型になるのか、別のフォームファクタになるのか、実際に発表されるまではわかりません。
ただ、今のところは「AIと人間の新しいインターフェースの模索は面白そうだけど、それがスマホを置き換えるほどのものになるかは疑問だな」というのが率直な感想です。


