「また新しいAIブラウザか」と思ったとしたら、その感覚はむしろ正直だと思います。ここ数年、「AI搭載」をうたうブラウザやアプリが次々と登場していて、正直どれも同じに見えてきますよね。でも今回のCometは、チェックしておく価値のあるアプリです。
2026年3月18日、AI検索エンジンのPerplexityが、iPhone向けAIブラウザ「Comet(コメット)」をApp Storeでリリースしました。当初3月11日にリリース予定でしたが、1週間延期されての公開です。CometはすでにmacOS版(2025年夏ごろ)、Android版(2025年秋ごろ)として展開されており、今回のiOS版はiPhoneユーザー待望のリリースとなります。なお、iPhone版と同時にiPad版もユニバーサルアプリとして公開されています。
そこで、CometがSafariと何が違うのか、どんな作業を楽にしてくれるのか、そしてどんなリスクや前提があるのかを解説していきます。
Cometはどんなブラウザなのか
Cometは、PerplexityのAIエンジンをブラウザそのものに組み込んだ「AI前提設計」のブラウザです。一言で表すなら、「ページを開く道具」ではなく「ページをAIに読ませて行動する道具」というコンセプトです。
ただし、iOS上のすべてのブラウザはAppleのルールにより、Safariと同じレンダリングエンジン「WebKit」を使わなければなりません。つまり、ページの表示速度や互換性でSafariを超えることはできない、という前提があります。CometがSafariに対して差別化を図れるのは、ページが開かれた「あと」に何ができるかという点だけです。
なお、利用できる環境は次のとおりです。
Comet(iOS版)基本情報
- 対応OS:iOS 18以上
- 価格:無料(無料プランは検索時の制限などあり。有料プランの場合は各種上限が大幅に引き上げられ、上位AIモデルの選択が可能)
- ダウンロード:App Store
具体的に何ができるのか
Cometには、次のような機能が備わっています。
ハイブリッド検索
「近くのカフェ」「試合のスコア」といったシンプルな検索は、通常の検索結果ページを返します。一方で「M5 MacBook Airのメモリ容量はどれくらいが仕事に向いていますか?」のような複雑な問いには、PerplexityのAIエンジンが複数ソースを参照しながら回答します。モバイルの用途に合わせて、検索の深さを自動で切り替える設計です。
Comet Assistant(エージェント機能)
開いているページの内容をAIに読ませながら、「要約して」「メールの下書きを作って」「価格を比較して」といった作業をブラウザ内で完結させられます。さらに踏み込んだ使い方として、カレンダーのイベントを開いて参加者をLinkedInで調べ、会議の準備メモを自動生成する、といった複数ステップのタスクもこなせるとされています。
Deep Research(ディープリサーチ)
複数のウェブサイトをまたいで情報を収集し、引用元付きの要約を生成する機能です。「GLP-1薬の最新情報」「転職活動の面接対策」など、調べものに時間がかかるテーマで特に力を発揮するとされています。
ボイスモード
開いているタブの内容について、音声で質問できる機能です。複数タブをまたいだ質問にも対応しており、ハンズフリーで調べものを進めたい場面で役立ちます。
他のデバイスとの同期
MacやAndroid版のCometと閲覧履歴・リサーチスレッドが同期されます。デスクトップで調べていた内容をiPhoneで続ける、といった使い方が可能です。
【デモ】Amazonでの商品探しを「丸投げ」してみた
実際に、Comet Assistantを使ってAmazonから特定の商品を探してもらった様子がこちら。
複雑な条件を指定したため完了まで約5分ほど要しましたが、その間、画面をスクロールさせた以外は一切操作していません。ブラウザが自らページを遷移し、情報を精査して回答に辿り着く姿は、まさに「ページを開く道具」から「行動するエージェント」への進化を感じさせます。
基本的に放置でOKなので、他の仕事をしたりできるのが最大のメリットですね。
Safariとの違いを整理すると
Safariとの違いを表にまとめると、こんなイメージです。
| 観点 | Safari | Comet |
|---|---|---|
| 基本スタイル | 自分で検索し、自分で読む | AIに読ませて、判断に集中する |
| 広告ブロック | 標準では一部のみ(拡張機能で対応) | 強力なブロッカーを標準搭載 |
| 強みのある場面 | 安定性・速度・Apple連携・プライバシー | リサーチ・比較・要約・タスク自動化 |
| 料金 | 完全無料 | 無料(有料プラン:Pro/Maxあり、月額$20前後〜 ※執筆時点) |
| 拡張機能 | 対応 | iOS版は非対応(将来的に変わる可能性あり) |
大切なのは「どちらが優れているか」ではなく、「何に使うか」という点。Safariは汎用ブラウザとして洗練されており、日常のほとんどの用途に十分対応できます。
特筆すべきは、標準で強力な広告・トラッカー遮断機能を備えている点。 Safariでも拡張機能を使えば広告は消せますが、Cometは最初から「広告がない状態」でページを読み込みます。これは単に画面がスッキリするだけでなく、AIがページ上の余計なバナーやプロモーション情報を「ノイズ」として拾ってしまうのを防ぎ、要約の精度を上げるという重要な役割も果たしています。
Cometは、「調べながら整理する」という作業に特化したツールとして位置づけるのがいいでしょう。
どんな場面で役立ちそうか
読者の方の日常に引き寄せて考えると、こんなシーンが思い浮かびます。
- 気になるガジェットを購入する前に、複数のレビューサイトをまたいだ比較表を一発で出させる
- 通勤中にニュース記事を開き、要点だけをAIに抽出してもらってさっと把握する
- 取材や商談の前に、相手企業の情報や関連トピックをまとめて整理させる
- 英語の記事を読みながら、わからない箇所を翻訳・補足してもらう
これまで「Safariでページを開いて → コピーしてChatGPTに貼り付けて → 結果をメモに書き写して」とやっていた一連の作業を、ブラウザだけで完結させようという発想です。習慣の摩擦を小さくするという意味では、シンプルに便利です。
気をつけておきたい課題とリスク
これはAIブラウザの宿命ですが、知っておきたいリスクがいくつかあります。
AIの誤読・幻覚(ハルシネーション)
Cometが出す要約や比較は、あくまでAIの解釈です。特に金額・仕様・医療・法律など、正確性が重要な情報については、必ず元ソースを確認するようにしてください。AIが「もっともらしく間違える」というのは、Cometに限らずすべての生成AIに共通する課題です。
プライバシーとデータ利用
Cometは、閲覧履歴と検索履歴を広告ターゲティングのプロファイル作成に利用するとMacRumorsなどが伝えています。「便利だから」と、機密性の高いビジネス情報や個人の重要なデータをAIに丸投げする前に、プライバシーポリシーを確認することをお勧めします。
セキュリティ上の指摘——CometJackingとは
2025年8月から10月にかけて、セキュリティ研究者たちからCometのエージェント機能に関する脆弱性が相次いで報告されました。
LayerXが公開した「CometJacking」と呼ばれる手法では、悪意を持って細工されたURLをクリックするだけで、Cometが接続しているGmailやGoogleカレンダーのデータを外部サーバーに送信させられるという概念実証が示されました。また、Braveのセキュリティチームも、ウェブページ上の悪意ある記述によってCometのAIエージェントが操作されうる間接プロンプトインジェクションの脆弱性を報告しています。
Perplexityはこれらの報告に対して多層的な防御策を実装したと公表しており、LayerXの指摘については「セキュリティ上の影響はない」と分類しています。しかし、AIエージェントがメールやカレンダーに接続した状態でウェブを閲覧するという設計そのものが、従来のブラウザにはなかったリスク領域を生んでいることは覚えておきたいポイントです。
そのため、重要な仕事のメールや社外秘の情報を扱う場面では、Cometに「エージェントとして動いてもらう」機能は使わず、日常的なリサーチ用途に限定するのが無難です。
大絶賛するような記事や動画はそのまま信じない
今後、「Safariはもう使わない」「これが次世代ブラウザだ」といった強い言葉でCometを紹介する動画やポストが増えることが予想されます。それらは「何ができるか」を知るうえでは参考になりますが、紹介しているのは多くの場合「短時間使った体験」であり、スポンサーシップが絡んでいることもあります。
AIの誤読リスク、プロンプトインジェクションの研究事例、プライバシーポリシーの詳細といった「地味だけど大事な話」は、テンションの高い動画ではあまり触れられません(触れたとしても少しだけでしょう)。
便利さに興奮している情報は「何ができるか」を知るには役立ちますが、「どこまで任せていいか」「どこからは自分で確認すべきか」を判断する材料としては不十分です。一段引いた目線を持ちながら使っていきましょう。
まとめ:どんなスタンスで付き合うか
CometはiPhone上でのリサーチや情報整理を効率化するポテンシャルを持ったブラウザです。無料で試せるようになったことで、気軽に触れる入口が開かれたのは確かです。
一方で、AIの出す答えをそのまま信じ込んだり、セキュリティやプライバシーの前提を理解しないまま「全部任せる」のは、2026年現在の技術水準ではまだ早いと感じます。
Safariを完全に置き換えるのではなく、「AIに任せてもいい調べもの作業だけを切り出す専用ツール」として使い分ける——そんな距離感がちょうどいいでしょう。まずは無料の範囲で試して、自分の使い方に合うかどうかを確認するのがおすすめです。

