ChatGPTやGeminiを使っているけど、思ったような答えが返ってこない。そんな経験はありませんか?実は、AIが微妙な回答を返す原因の多くは、AIの性能ではなく「プロンプト」つまり指示の出し方にあります。
GoogleやOpenAIといった大手AI企業も、公式ガイドで「明確で具体的な指示」や「構造化されたプロンプト」の重要性を強調しています。今回は、これらの公式ベストプラクティスをベースに、実務でも使えるプロンプト設計のコツを解説します。
なぜAIは思った通りに動かないのか
「AIに聞いても、いつも的外れな答えが返ってくる」という悩み、よく耳にします。でも実は、これはAIの問題というより、私たちの指示の出し方に原因があることがほとんどです。
例えば、「記事を書いて」とだけ伝えても、AIには何について、どんな読者向けに、どのくらいの長さで書けばいいのか全くわかりません。人間同士でも、曖昧な指示では良い仕事ができないのと同じです。
Google の Gemini ガイドでも「役割・タスク・文脈・出力形式を明確にすること」が推奨されており、OpenAI も同様に「明確で具体的な指示」「構造化されたプロンプト」をベストプラクティスとして挙げています。つまり、AIを上手に使いこなすためには、プロンプト設計のスキルが欠かせないということですね。
良いプロンプトとは、AIに対して「何を」「どのように」「誰のために」やってほしいのかを明確に伝えるものです。この基本を押さえるだけで、AIの回答の質は劇的に変わってきます。
公式ガイドに共通するプロンプト設計の基本
それでは、GoogleやOpenAIが推奨するプロンプト設計の基本要素を見ていきましょう。実は、各社のガイドラインには共通するポイントがいくつもあります。
プロンプトの基本コンポーネント
効果的なプロンプトは、いくつかの基本要素で構成されています。これらを意識するだけで、プロンプトの質が大きく向上しますよ。
目的(Objective)は、AIに何をしてほしいのかを明確に示す部分です。「要約して」「分析して」「提案して」など、具体的なアクションを指定します。
指示(Instructions)では、タスクを実行する際の具体的な手順や条件を伝えます。「3段階で説明する」「箇条書きで列挙する」といった形式の指定も、ここに含まれますね。
役割(Persona)は、AIにどんな立場で回答してほしいかを設定する要素です。「ITサポート担当者として」「マーケティングの専門家として」など、役割を与えることで、回答の視点や専門性をコントロールできます。
文脈(Context)は、タスクの背景情報です。誰に向けたものなのか、どんな状況で使うのかといった情報を提供することで、より適切な回答が得られやすくなるんです。
出力形式(Response format)では、回答のフォーマットを指定します。マークダウン形式、JSON形式、特定の文字数など、求める形式を明示することで、そのまま使える成果物が得られやすくなります。
各社ベストプラクティスの共通項
GoogleやOpenAI、Microsoftなど、各社の公式ガイドを見ていくと、いくつかの共通したベストプラクティスが浮かび上がってきます。
まず最も重要なのが「明確で具体的に書く」こと。曖昧な表現を避け、具体的な数値や条件を含めることで、AIが意図を正確に理解できるようになります。
「構造化する」ことも重要です。長文のプロンプトは読みにくいだけでなく、AIにとっても処理しにくいもの。見出しや箇条書きを使って、情報を整理して伝えましょう。
「役割を与える」アプローチも効果的ですね。AIに特定の専門家や立場を演じさせることで、その分野に適した言葉遣いや視点での回答が得られます。
「背景情報を足す」ことで、AIはより文脈に沿った回答を生成できるようになります。読者層、使用目的、制約条件などを明示することが大切です。
複雑なタスクは「分割する」のも重要なテクニックです。一度に全てをやらせるのではなく、ステップごとに分けることで、各段階での精度が上がるんですよね。
そして最後に「反復して改善する」こと。一発で完璧なプロンプトを作るのは難しいので、試行錯誤しながら徐々に最適化していくアプローチが推奨されています。
Markdownで「読めるプロンプト」にする
プロンプトを構造化する具体的な方法として、Markdown記法の活用がとても効果的です。見た目が整理されるだけでなく、AIにとっても情報の優先順位や関係性が理解しやすくなります。
見出しと箇条書きで構造化する
Markdown記法を使えば、プロンプトを階層的に整理できます。#や##、###といった見出し記号を使って、「役割」「目的」「背景」「要件」などのセクションを明確に分けましょう。
例えば、こんな感じです。
※あくまで例なので、使い方に合わせて書き換えてください。
# 役割 あなたは経験豊富なテクニカルライターです。 ## 目的 初心者向けのクイックスタートガイドを作成してください。 ## 背景 - 対象読者:新しい経費精算システムを初めて使う社員 - 前提知識:基本的なPC操作ができるレベル - 使用場面:システム導入初日のオリエンテーション資料 ## 要件 - 文字数:1500〜2000字程度 - 構成:導入→基本操作→よくある質問の3部構成 - 文体:です・ます調で親しみやすく
箇条書きを使うことで、複数の条件や要素を明確に列挙できますよね。AIはリスト形式の情報を認識しやすく、漏れなく処理してくれる傾向があります。
見出しレベルを適切に使い分けることも大切です。#は大項目、##は中項目、###は小項目といった具合に、情報の階層を視覚的に表現しましょう。
区切り記号で「指示」と「入力」を分離する
プロンプトには、AIへの指示部分と、処理してほしいデータ部分の両方が含まれることがあります。これらを明確に区別することで、AIの処理精度が向上するんです。
区切り記号としてよく使われるのが、バッククォート(“`)や水平線(—)、あるいは明示的なセクション名(### INPUT など)ですね。
例えば、このような形式が効果的です。
# タスク 以下の文章を800字程度に要約してください。 --- ### INPUT (ここに要約したい長文を配置) --- ### OUTPUT形式 - 見出し付きの3段落構成 - 各段落は250〜300字 - 重要なキーワードは太字で強調
この方法を使うと、AIは「ここまでが指示で、ここからがデータ」という境界を正確に認識できます。特に長文を処理する場合や、複数の入力データを扱う場合に有効ですよ。
また、出力形式を明示するセクションを設けることで、求める結果のイメージをAIと共有できます。これにより、何度も修正を重ねる手間が減るんですよね。
実務で使えるプロンプトテンプレート集
ここからは、実際の業務で使えるプロンプトのテンプレート例を紹介していきます。自分の用途に合わせてカスタマイズして使ってみてください。
テンプレ1:社内IT向けマニュアル作成プロンプト
新しいシステムやツールを導入したとき、社内向けのマニュアルを作る必要がありますよね。このテンプレートは、そんな場面で役立ちます。
# 役割 あなたは社内IT部門の技術文書作成の専門家です。 ## 目的 【システム名】のクイックスタートガイドを作成してください。 ## 対象読者 - 職種:全社員(営業、事務、管理部門など) - ITスキル:基本的なPC操作ができるレベル - 前提知識:これまで類似システムを使った経験なし ## 作成要件 - 文字数:1500〜2000字 - 構成: 1. システムの概要と利点(300字程度) 2. 初回ログイン手順(500字程度) 3. 基本的な操作方法(700字程度) 4. よくある質問とトラブルシューティング(500字程度) - 文体:です・ます調で親しみやすく、専門用語は必ず説明を付ける - 画像挿入位置:主要な手順には「(ここにスクリーンショット挿入)」と記載 ## 補足情報 - 導入背景:業務効率化と経費精算のペーパーレス化を目的とした導入 - 対応期限:来週月曜日までに全社員が使えるようにする必要がある - サポート体制:IT部門が初日は常駐でサポート、以降はチャットで対応
このテンプレートのポイントは、読者の属性を具体的に設定していることです。「基本的なPC操作ができるレベル」と明示することで、説明の難易度が適切になります。
テンプレ2:BtoB技術ブログの要約+リライトプロンプト
長い技術記事や報告書を、読みやすいブログ記事に変換したいときに使えるテンプレートです。
# タスク
以下の技術文書を、BtoB向けブログ記事として要約・リライトしてください。
## 入力文書
---
(ここに元の文書を貼り付け)
---
## 要件
- 文字数:800〜1000字
- 対象読者:IT部門の意思決定者(CIO、IT部長クラス)
- 記事のゴール:技術的な正確さを保ちつつ、ビジネス価値を伝える
## 出力構成
1. 導入部(150字):課題提起と記事の要点
2. 本文(600字):
- 技術的なポイント(専門用語は平易に解説)
- ビジネスへの影響
- 導入のメリット・デメリット
3. 結論(150字):推奨アクションとネクストステップ
## スタイルガイド
- 文体:です・ます調
- 見出し:H2、H3を活用して読みやすく
- 強調:重要なポイントは太字で
- 避けるべき:過度な技術用語、曖昧な表現
## 改善点の指摘
記事の最後に、元文書の以下の点についてフィードバックをお願いします。
- 論理構成の改善点
- 不足している情報
- 読者にとって分かりにくい可能性がある箇所
このテンプレートの特徴は、単なる要約ではなく「リライト」と「改善提案」まで含めている点です。AIからのフィードバックを得ることで、次回の文書作成に活かせます。
テンプレ3:新人向けセキュリティ研修スライド設計プロンプト
プレゼンテーション資料の構成案を作りたいときに便利なテンプレートです。
# 役割
あなたは企業研修の経験豊富な講師です。
## タスク
新入社員向けの情報セキュリティ研修スライドの構成案を作成してください。
## 研修の基本情報
- 対象者:新入社員(IT系・非IT系混在)
- 所要時間:45分(質疑応答含む)
- 実施形態:対面研修、プロジェクター使用
- スライド枚数:15〜20枚程度
## カバーすべきトピック
1. 情報セキュリティの基本概念
2. パスワード管理のベストプラクティス
3. フィッシングメールの見分け方
4. 社外でのPC・スマホ利用時の注意点
5. インシデント発生時の報告フロー
## 求める成果物
各スライドについて、以下の形式で構成案を提示してください。
スライド番号:タイトル
- 主要メッセージ(1〜2文)
- 含めるべき要素(箇条書き)
- ビジュアル案(図表、イラストの種類を提案)
- 所要時間の目安
## 注意事項
- 専門用語は必ず平易な言葉で解説すること
- 実例・事例を含めて具体的に
- 「禁止事項の列挙」だけでなく、「正しい行動」を示すこと
- 新入社員が明日から実践できる内容に
このテンプレートでは、成果物のフォーマットまで具体的に指定しています。こうすることで、AIが生成する構成案がそのまま使える形になります。
テンプレ4:「プロンプトメーカー」用カスタムGPT設計
最後に、プロンプト作成を支援するAIを作るためのテンプレートです。ChatGPTのカスタムGPTやGeminiで使えます。
# あなたの役割
あなたは優れたプロンプトエンジニアです。ユーザーの要望を聞き取り、効果的なプロンプトを設計する専門家として振る舞ってください。
## あなたのタスク
ユーザーから依頼を受けたら、以下の手順でプロンプトを作成します。
### ステップ1:要件のヒアリング
まず、以下の情報をユーザーに質問してください。
1. 何を作りたいのか(目的)
2. 誰が使うのか、誰に向けたものか(対象者)
3. どんな形式で欲しいか(出力形式)
4. 重要視する条件や制約(優先順位)
5. 避けてほしいこと(除外事項)
### ステップ2:プロンプト設計
ヒアリング内容に基づいて、以下の構造でプロンプトを作成してください。
- 役割:(AIに演じてほしい役割を明記)
- 目的:(タスクの目的を具体的に)
- 対象者・背景:(文脈情報を箇条書きで)
- 要件:(具体的な条件をリスト化)
- 出力形式:(求める成果物のフォーマット)
- 除外事項:(避けるべきこと、してはいけないこと)
### ステップ3:確認と改善
作成したプロンプトをユーザーに提示し、以下を確認してください。
- 要件が正しく反映されているか
- 追加や修正が必要な点はないか
- すぐに使える状態か
## あなたの心得
- 専門用語は避け、分かりやすい言葉で
- 具体例を挙げて説明する
- ユーザーの意図を深く理解することを優先
- 一度で完璧を目指さず、対話を通じて改善
このメタプロンプト(プロンプトを作るためのプロンプト)を使えば、自分専用のプロンプト作成アシスタントが作れます。何度も使う定型的なタスクがある人には特におすすめです。
AIと一緒にプロンプトを育てるという発想
プロンプト設計で最も大切なのは、「完璧を一発で目指さない」という考え方かもしれません。試行錯誤を前提に、徐々に最適化していくアプローチが、結果的には最も効率的です。
一発で100点を狙わず「試行→修正→テンプレ化」
OpenAIの公式ガイドでも、「反復的なプロンプト改善」が強く推奨されています。最初から完璧なプロンプトを作るのは難しいですし、その必要もないんですよね。
まずは基本的なプロンプトで試してみて、結果を見ながら修正していく。この繰り返しが、実は最も効率的な方法です。
例えば、最初は「記事を書いて」という簡単な指示から始めて、結果を見て「もっと専門的に」「もっと分かりやすく」と調整していく。このプロセスを経ることで、求める成果に必要な要素が見えてきます。
そして、何度も使うタスクについては、試行錯誤の末に辿り着いたプロンプトをテンプレートとして保存しておきましょう。NotionやGoogleドキュメント、テキストファイルなど、自分が管理しやすい形で構いません。
複雑なタスクは分割することも重要です。「記事を書いて、SEO対策もして、画像も提案して」と一度に頼むより、まず記事を書かせて、それをベースにSEO対策、画像提案と段階を踏む方が、各ステップでの品質が上がるんです。
モデルの限界と「プロンプト以上」の要素も理解する
プロンプト設計は確かに重要ですが、それだけで全てが解決するわけではありません。AIの性能や限界を理解しておくことも大切ですよね。
まず、モデルの性能差は実在し、同じプロンプトでも結果は大きく異なります。高度なタスクには、より高性能なモデルが必要になる場面もあります。
コンテキスト長(一度に処理できる文字数)の制限も重要なポイントです。長大な文書を処理したい場合、プロンプトだけでは対応できず、文書を分割するなどの工夫が必要になります。
また、最新情報の取得や、ファイルの直接編集など、AIだけでは対応できないタスクもあります。こうした場合は、外部ツールとの連携や、人間による最終確認が不可欠です。
とはいえ、プロンプトは私たちが最もコントロールしやすいレバーです。モデルの選択や外部ツールの統合は技術的な知識が必要ですが、プロンプトの改善は誰でも今すぐ始められますよね。
完璧なプロンプトを目指すより、「今より少し良いプロンプト」を積み重ねていく。そんな地道な改善の積み重ねが、AIを本当に使いこなすための近道なのかもしれません。
まとめ
プロンプト設計は、一見難しそうに見えますが、基本要素を押さえて試行錯誤を重ねていけば誰でも確実に上達します。Google や OpenAI の公式ガイドにあるテクニックを参考にしながら、自分なりのプロンプトライブラリを育てていくことで、AIとの対話そのものが新しいスキルとして身についていくはずです。

